【にっぽんクラフト蒸溜所紀行 vol.6】天鏡蒸溜所 TENKYO DISTILLERY<福島・磐梯町>
初留用・再留用に2基ずつ据えられているポットスチル。小池さんのウイスキーにかけた情熱が垣間見える
スコットランドでウイスキーに魅せられた青年が故郷・会津で描いた夢
ニッカウイスキーを創業し、「日本ウイスキーの父」と呼ばれた竹鶴政孝。彼が国産ウイスキーの製造を目指しスコットランドに渡ったのが、1918年のこと。その約100年後にあたる2018年、一人の青年が同じ志を胸に、スコットランドにある60以上の蒸留所を訪ね歩いていた。天鏡蒸澑所を創業した小池駿介さんだ。
名峰・磐梯山の麓で湖面を天に向ける、猪苗代湖。別名「天鏡湖」とも称されるその湖畔から車で10分ほど走った森の中に佇む蒸留所は、江戸時代から続く酒蔵・栄川酒造の瓶詰め工場を改修して誕生したもの。同酒造は2021年、同じく江戸期に喜田方で漆商として始まり、現在は地域に根ざしたスーパーマーケットを展開するリオンドールコーポレーションのグループ会社となっているだが、そのコーポレーションの3代目が、小池さんだった。大学在学中に留学先のイギリスでウイスキーに出逢い、その奥深さに魅了された小池さんは「ウイスキーづくりはこれからの日本、そして故郷の会津だからこそ挑戦できる事業。ウイスキーの魅力を多くの方に届けることが、人と地域を繋ぐ力になる」と確信。本場スコットランドで多くの蒸留所を訪ね、その技術や哲学について学び続けていたという。

見学通路にはスコットランドの蒸留所をめぐっていた創業者・小池さんの写真が飾られている
「2018年に酒造と蒸留所を一つの会社組織にし、翌年入社した小池がウイスキー事業を牽引するため、自ら蒸留所の設計図を19回も引き直して、2022年3月に着工したんです」と、天鏡株式会社の阿部翔太さん。小池さんは同時にスコットランドから樽詰めする前のニューポットを輸入。会津で熟成させた原酒がどんな風味をまとうのか、58種類もの樽を用意し検証を始めていたという。
実は取材当日、その小池さんのお話を伺えるのではと楽しみにしていたのだが、首を横に振る阿部さんの言葉に、メモを取る手が止まった。「蒸留所の竣工を見る前に、知床の観光船事故で亡くなりました。28歳でした」
4基のポットスチルと2種の冷却装置が生む多彩な酒質
創業者の遺志を継ぎ2024年4月から本格始動した蒸留施設を見せていただくと、小池さんの情熱が伝わってくるようだった。例えばモルト粉砕機は、多くの蒸留所で使用され“名機”と呼ばれるポーティアス社の1967年製。高性能なうえあまりに頑丈で壊れないため新規製造が出来ず、廃業・製造中止になったという逸話をもつ機械だ。イギリスのビール会社で使われていたものがあると、スコットランドの知人が小池さんに教えてくれたものだという。発酵槽もステンレス製と木製のものが10槽、さらにポットスチルも初留用と再留用が2基ずつ、計4基据えられている。うち初留用の2基はガスによる直火加熱式だ。

左がスコットランドの多くの蒸留所で使われているポーティアス社製の粉砕機

中央二つが初留用、両脇が再留用のポットスチル。初留用は直火式だ

麦汁を入れる発酵槽も、ステンレス製と木製の2種類が並ぶ
「蒸気の冷却方式も、豊富な水を生かし渦巻き状の銅管を水槽で冷やすワームタブ方式と、筒の中に細い銅管を敷き詰めるシェル&チューブ方式の2つがあります。前者は蒸気と銅が接する面積が小さく、後者は大きい。銅が吸着する硫黄成分の量が変わるため、味わいも変わる。発酵槽もポットスチルも冷却機も、幅広い酒質をもつ原酒を作りたいという創業者の思いが表れているんです」

冷却方法が異なるニューポット。香りの違いに驚く

冷却方法の違いが生む酒質について説明する阿部翔太さん
そして、小池さんが輸入した189樽分のニューポットをこの地で熟成・ブレンドした「KAZE ファウンダーズリザーブ レガシー」がリリースされたのは、2025年。ブレンドには、小池さんと親交を結んでいたスコットランドの著名なウイスキーコンサルタントであるブレア・ボウマン氏も特別顧問として協力。アドバイザーとして今も製品作りを見つめているという。そしてそのウイスキーが今年、アジア最大級の品評会である東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)で、最高金賞を受賞した。スモーキーななかにキャラメルやアプリコットのような風味をもつブレンデッドウイスキーのロゴは、アルファベットで「風」という漢字を描いたもの。スコットランドと会津、双方の土地が育んだもの---そんな思いが込められているという。
小池さんはまた、蒸留所が着工する前の2019年からすでに、会津での大麦栽培もスタートしていたと、阿部さんは続ける。現在も美里町、坂下町、喜多方市、磐梯町で栽培を続けており、全量に対し15%ほどを仕込みに使用しているという。スコットランドのニューポットにくわえ、会津で育った麦からウイスキーを作ることも、小池さんの夢の一つだったに違いなかった。
「伝統的かつ透明性のある製法で造られた、素晴らしいウイスキーを届けたい」。小池さんの遺志はさまざまな人の手を経ていま、確かに結実し始めている。

ニューポットやスコットランド産原酒を会津で熟成させたものなど3種が試飲可能
文・奥紀栄


天鏡蒸澑所 TENKYO DISTILLERY
住所:福島県耶麻郡磐梯町大字更科字天鏡1
TEL:0242-73-2411
営業:10:00〜16:30(直売書 ゆっ蔵)年末年始休
交通:JR磐越西線磐梯町駅からタクシー10分/磐越自動車道磐梯河東ICから約8分
■見学ツアー
1日1回、ビジターセンターでの説明と蒸留所見学、テイスティングを含む所要1時間のツアーを完全予約制で実施。料金は一人3000円(キャッシュレス決済のみ対応)。
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※記載内容はすべて掲載時のデータです。
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(出典:「旅行読売」2026年11月号)
(Web掲載:2026年10月16日)


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