駅舎のある風景 江崎駅【山陰線】
早春のサザンカを見上げ、海岸の小さなお堂へ
冬の日本海沿いを旅する途中、山口県最北にある駅を訪ねた。
昭和初期の1928年に開業した江崎駅は、かつて旧田万川町の玄関口として栄え、「さんべ」「ながと」といった急行列車も停車していた。山陰線には、長門大井駅など似た造りの駅舎があるが、中でも存在感を放っている。緑色の屋根の駅舎前には立派なクロマツが鎮座し、駅前広場脇の植え込みのサザンカの花は寒さの残る早春の空に彩りを添えている。
駅からしばらく歩くと小さな入り江が見えてきた。その一角に室町時代、応永年間創建の西堂寺六角堂が立つ。20年に1度公開される境内の地蔵尊は、許されぬ恋に悩み海に身を投じた鍋山長者の娘・お菊の化身とされ、地元の人々に守り継がれている。この地の歴史と風土を肌で感じながら、再び山陰の旅路についた。
文・写真/越信行
山陰線は1933年に全線開通。江崎駅へは新山口駅から特急スーパーおき1時間30分の益田駅で山陰線に乗り換え25分
(出典:「旅行読売」2020年3月号)
(WEB掲載:2022年10月25日)