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冬の西表島で“学び”と癒やしの島時間を過ごす

場所
> 八重山郡
冬の西表島で“学び”と癒やしの島時間を過ごす

大原港へと続く船浦海中道路から眺めたピナイサーラの滝。海中道路までは西表島ホテル by 星野リゾートから15分ほど

世界自然遺産・西表島、命が息づく森へ

冬の西表島は静かで落ち着いた表情を見せる。森を歩けば、生命の息づかいがそっと伝わってくる。学びながら癒やされる時間のなかで、“人と自然が支え合う島の今”に出会う旅。

石垣島から船で約40分。竹富島や小浜島を横目に進むと、島の九割がジャングルに覆われた西表島が現れる。島の西部にある「西表島ホテル by 星野リゾート」は、リゾートの快適さのなかで、森と海に寄り添いながら過ごせる。

西表島は2121年726日、「世界自然遺産」に仲間入りした。日本では知床、白神山地、屋久島、小笠原諸島に続く五つ目の登録地だ。評価されたのは、豊かな生物多様性。

多様な生き物が互いに調和し、共に生きる姿は、島全体がひとつの命のように息づいている。

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マングローブコースでは、ホテル前のビーチから河口までを散策

ホテルでは、敷地内の森を歩くライトアクティビティ「イリオモテガイドウォーク」を毎日開催している。

スタッフの案内で「ジャングルコース」を歩くと、幹を支柱根で支える大きなガジュマル、潮風に強いテリハボク、冬の森を彩る赤色のリュウキュウツチトリモチなど、南の植物が見せるたくましさに出会える。

小さなビオトープには鳥やカエルが遊びに来る。再利用ボトルの柵はイノシシ対策で、夜になるとそこを、イリオモテヤマネコが静かに横切るという。スタッフは「自然の回復を手伝う最小限の介入」を意識して森づくりを続けている。また、クロツグの繊維を工芸品に使うなど、自然と文化を結ぶ試みも行われている。

もうひとつの「マングローブコース」では、島に生息するマングローブや海の生き物の生態を、スタッフとビーチを歩きながら学べる。

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カンムリワシの学校やイリオモテヤマネコの学校などを開催

リゾートで出会う、学びと癒やしの夜

屋外プールは南国の緑に囲まれ、昼は青空を映し、夜はライトアップで幻想的な雰囲気に包まれる。夕暮れ時にはお酒のふるまいもあり、旅の時間をゆるやかにしてくれる。

全室海向きの客室は落ち着いたデザインで、天蓋付きのデイベッドが非日常を演出。朝は鳥の声で目覚め、夜は星空を楽しむ。 

ホテル前のトゥドゥマリ浜は、古くから「神が留まる場所」と呼ばれる神聖な浜。波音だけが響く穏やかな場所で過ごすひとときは、リゾートならではの贅沢。

冬の夜、森からはヤエヤマアオガエルの澄んだ声が響く。繁殖期は12月から3月。夏ではなく冬に鳴くカエルというのも、西表島らしい不思議さだ。

夜はロビーで行われる「世界遺産の学校」へ。イリオモテヤマネコ編やカンムリワシ編などが開かれ、クイズを交えて楽しく学べる。

カンムリワシは、石垣島と西表島だけに生息し、現在は180羽ほど。木や電柱に止まり、じっと獲物を待つ「待ち伏せ型」の狩りをする。道路沿いに姿を見せることも多く、車との衝突事故が絶えないため、島では「時速40㌔以下での走行」が呼びかけられている。

スタッフの言葉が印象的だった。「西表島の道路は、人間だけのものではありません」。この一言に、〝島の哲学〟が凝縮されている。

 食事は島の恵みを取り入れたビュッフェスタイル。色鮮やかな島野菜、ガザミ(ワタリガニ)、パイナップルをはじめ、島で親しまれる食材が並び、南国の味と香りを、地酒とともに楽しめる。

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地元の猟師・石垣さん親子(撮影は202412月)

命をいただき、命を守る貴重な体験

翌日は、地元の猟師・石垣長健さんが案内する「カマイ狩猟文化体験ツアー」に参加した。カマイは八重山の言葉でイノシシのこと。島の暮らしに欠かせない存在だ。

まずは座学から始まり、島の猟の歴史や罠の仕組み、山の地形や獣道の見極め方などを学ぶ。そして狩りの森へと向かう。近隣から船で行く山まで、その時々で猟場が変わる。

森へ向かうと、石垣さんが言った。「イノシシは賢い。罠の3センチ前まで来て、回って逃げることもある」。体験の前には、必ずこう伝えるのだという。「目の前でイノシシをしめる。かわいそうと思うならやめておきなさい」。命をいただく、その重みが、夕食に出されたカマイ料理の味を深くした。

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ホテルでカマイ料理の夕食を。写真は「カマイのスモーキークラッチ」、燻製の香りが魅力

さらに翌日は、「イリオモテヤマネコ痕跡ツアー」へ出かけた。世界的にも貴重な固有種、イリオモテヤマネコの暮らしを探るツアーだ。夜行性で姿は見えないが、自然の中を歩きながら、足跡や糞などを探していく。その気配をたどりながら、島の自然との共生について学んでいく。ガイドの中山健さんは、島で15年以上イリオモテヤマネコの調査に携わり、地域の人たちとともに見守る取り組みを続けてきた。近年は交通事故や近親交配による個体数の減少が進み、推定生息数は約100頭。メスが安全に子育てできる環境が少なくなっているという。

中山さんは「これは人間の暮らし方の影響。道路整備や観光開発を、少しでも自然に寄り添う形にしていくことが大切」と語る。環境省では個体ごとの模様を識別し、カメラで見守りを続けている。

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長年ガイドを務める中山さんに導かれ、イリオモテヤマネコの痕跡をたどる

ツアーでは、そんな現場を歩きながら、観光と自然をどう共に活かしていくかを考える。「自然を学び、行動を変えるきっかけをつくる」。それがこのツアーのテーマだ。中山さんの〝猫愛〟にあふれる語り口に引き込まれた、学び多き時間だった。

人と自然が共に生きる西表島の未来へ

西表島ホテルでは、地域と手を取り合いながら、様々な取り組みを行なっている。ホテルの生ごみを堆肥化し、地元農家とピーチパインを育てる「環パインプロジェクト」はそのひとつ。観光と農業を循環でつなぐ試みだ。 

星野リゾートの軽井沢エリアで培ったゼロエミッション(廃棄物ゼロ)の経験を活かし、西表島ホテルは「日本初のエコツーリズムリゾート」として、島の未来を見据える。

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客室は全139室。写真は「デラックスツイン」

「西表島の道路は、人間だけのものではありません」。この言葉が示すように、カンムリワシもイリオモテヤマネコも、そして人も、みな同じ輪の中に生きている。

生物多様性とは、多くの生きものがいることではなく、互いを支え合いながら生きていること。その輪の中に、人間も含まれているのだ。

近年注目される「ステークホルダーツーリズム(利害関係者と共生する観光)」は、旅行者、地域、自然のすべてが幸せを分かち合う旅のかたち。美しい風景を楽しみながら、少しだけ学び、感じ、考える。そんな旅が、これからのスタンダードになっていくのかもしれない。

冬の西表島は、華やかさよりも静かな学びと発見の季節。自然と人が寄り添う島へ、出かけてみよう。

文/のかたあきこ 写真/木下清隆、西表島ホテル


西表島ホテル by 星野リゾート

住所:沖縄県八重山郡竹富町上原2-2
TEL:050-3134-8094(星野リゾート予約センター)
客室:139
料金:224,000円〜(21室利用時1人あたり、税・サ込、食事別)。「春のピーチパイン祭り」は宿泊者限定(無料、予約不要)。

※記載内容は掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2026年1月号)
(Web掲載:2025年12月12日)


Writer

のかたあきこ さん

旅ジャーナリスト。町、人、温泉、宿をテーマに30年間、全国取材。テレビ東京『ソロモン流』で旅賢人と紹介される。宿本・旅美人SPECIAL編集長、温泉ソムリエアンバサダー、睡眠健康指導士、傾聴スペシャリスト、サウナ・スパプロフェッショナル、日本茶検定1級、日本茶インストラクター、福岡県出身(福岡検定・中級)。2024年5月に書籍『手わざの日本旅 星野リゾート温泉旅館「界」の楽しみ方』(旅行読売出版社)を発刊。

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