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パイン農家とホテルスタッフがつなぐ西表島の未来

場所
> 八重山郡
パイン農家とホテルスタッフがつなぐ西表島の未来

ピーチパインは果肉が柔らかく進迄食べられる。美容や疲労回復に

飲食店も参加、5年目のピーチパイン祭り

桃のような甘い香りと白い果肉から「ピーチパイン」と呼ばれる沖縄県西表島のパイナップル。希少なパインを、生産者と一緒に堪能できるのが西表島ホテル by 星野リゾートで開催する「春のピーチパイン祭り」だ。またホテルのレストランで出た生ゴミを堆肥化しパイン農家に還元する「環パインプロジェクト」がスタート。西表島トロピカルフルーツ生産組合に話を伺った。

桃のような甘い香りと白い果肉から「ピーチパイン」と呼ばれる沖縄県西表島特産のパイナップル。

見た目は丸く小ぶりで愛らしく、果肉は柔らかくて果汁たっぷりの芳醇な味わいだ。旬は5月上旬から6月中旬。市場に出ることが珍しい希少なピーチパインを、西表島では完熟のベストな状態で堪能できる。

「春のピーチパイン祭り」は5年目(2025年426日〜615日)。誕生の経緯を、西表島トロピカルフルーツ生産組合で初代組合長を務めた池村一輝さんはこう話す。

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5年目を迎える「春のピーチパイン祭り」

「西表島ホテルのスタッフがコロナ禍に、農園を手伝ってくれたことがきっかけです。『味と思いに共感したので、お客様にもこの美味しさを伝えたい』と言われた時は驚きました」。

西表島ホテルの細川正孝総支配人は「コロナ禍で休館となり仕事がない時期でした。できることを探す中で、スタッフが自主的にパイン農家さんの手伝いを始めました」と説明する。

同祭り期間中、ホテルのロビーではピーチパインを提供し、特設ステージ「ピーチパインSHOW」ではパイン農家が鎌を使ってピーチパインを捌き、特徴や歴史を紹介する。

期間限定で畑でのピーチパイン収穫体験もある。さらに島内の飲食店ではピーチパインを使用したパフェやスムージーなどのコラボメニューを用意。西表島全体で収穫シーズンを盛り上げる。

「祭りを通して、自分も農園スタッフも気持ちの変化が生まれました」と話すのは、組合メンバーで三重県から移住した平井伯亨さんだ。奥さんの実家であるパイン農家を継ぐ三代目だ。

 「ホテルのお客様にピーチパインの説明をするために、事前に義父や先輩に話を聞き、こだわりや歴史、苦労を改めて知りました。従業員にも共有すると、栽培意欲が強くなったと感じます。よりよい品物を責任を持ってお客様にお届けしようと」。

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お話を伺った西表島トロピカルフルーツ生産組合の皆さんと西表島ホテルの細川総支配人

組合最年長の川満弘信さんは、若い世代を見守りつつ、パイナップル生産の歴史を振り返る。 

「西表島のパイナップル栽培は半世紀以上前からで、サトウキビ農家がパイナップルに切り替えました。パイナップルは、酸性土壌の水はけがよい赤土を好みます。島の気温も最適。当時は缶詰用のパインであるハワイ種の栽培が主流で、加工しやすい大きなパインほど高値が付きました」。 

しかし1994年、ウルグアイ・ラウンドの輸入自由化を受けて海外産が増えると、島のパインは値が下がり、缶詰工場は閉鎖に。それならば独自の生食用パインで生き残る道を模索しようということになった。 

「ハワイ種は生食としては酸味が強かった。一方、1999年に沖縄県が開発した『ソフトタッチ』は小ぶりで売り物にならないと見向きもされない中で、西表島の生産者は見た目と味わい、香りに注目して『ピーチパイン』という愛称をつけて栽培を継続。味にこだわり2006年に産地指定を受けるまでに成長。若い世代が今も研究を重ね、西表島の特産品としてブランド化に成功しています」(川満さん) 

「ブランドといっても、高値にはしたくない。〝ちょっとの贅沢〟と喜んでもらえたら嬉しい」とは、池村さんの従兄弟の池村海仁さん。

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2021年に世界自然遺産に登録された西表島の滞在拠点「西表島ホテル」

環パインプロジェクト

現在、二代目組合長を務める渡久山賢太さんは目標をこう話す。

「西表島トロピカルフルーツ生産組合は2018年、島の西部地区にあるトロピカルフルーツ生産農家で結成しました。島の活性化のために、農業という枠から一歩踏み出したことに挑戦しようという思いを持ったパイン農家三代目が中心です」。

地域の課題を、農業プラス新たな発想で解決することを目指すそうだ。

2024年にスタートした「環パインプロジェクト」もその一つ。西表島ホテルとパイン農家が協業し、島内における循環型農業構築に取り組む。

ホテルのレストランで出た生ゴミをホテルスタッフが管理して堆肥化し、資源としてパイン農家へ還元。その有機質肥料で栽培されたピーチパインを「春のピーチパイン祭り」で宿泊者に振る舞うことが目標。持続可能な農業の循環を目指す。

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レストランで出た生ゴミを堆肥化活用する「環パインプロジェクト」

「植え付けから収穫まで2年かかるので、『環パイン』の味わいが今から楽しみです」と、一同にっこり。

エコロジカルな循環はさることながら、「春のピーチパイン祭り」は島民と旅行者の交流やパイン農家の世代循環にも一役かっていると感じた。西表島ホテルは日本初の「エコツーリズムリゾート」を目指し、環境に配慮しながら、世界遺産に選ばれた島の魅力と価値を感じる体験を、一年を通して提案している。

文/のかたあきこ 写真/木下清隆、西表島ホテル


西表島ホテル by 星野リゾート

住所:沖縄県八重山郡竹富町上原2-2
TEL:050-3134-8094(星野リゾート予約センター)
客室:139
料金:224,000円〜(21室利用時1人あたり、税・サ込、食事別)。「春のピーチパイン祭り」は宿泊者限定(無料、予約不要)。

※記載内容は掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2025年6月号)
(Web掲載:2025年12月12日)


Writer

のかたあきこ さん

旅ジャーナリスト。町、人、温泉、宿をテーマに30年間、全国取材。テレビ東京『ソロモン流』で旅賢人と紹介される。宿本・旅美人SPECIAL編集長、温泉ソムリエアンバサダー、睡眠健康指導士、傾聴スペシャリスト、サウナ・スパプロフェッショナル、日本茶検定1級、日本茶インストラクター、福岡県出身(福岡検定・中級)。2024年5月に書籍『手わざの日本旅 星野リゾート温泉旅館「界」の楽しみ方』(旅行読売出版社)を発刊。

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