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蓼科の温泉宿で読書ステイ

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蓼科の温泉宿で読書ステイ

フローリングと本棚はダークブロンズ、家具や調度品はボルドー、ダークグリーン、ゴールド色で統一され、安らぎ感が漂う


蔵書3万余のブックラウンジ

新宿駅から特急あずさで約2時間、茅野駅から無料送迎バスでビーナスラインを30分ほど走ると、渓谷にひっそりとたたずむ宿が見えた。

蓼科 親湯温泉に初めて泊まったのは3年ほど前、北八ヶ岳登山の時のこと。館内に置かれたたくさんの本が気になりながら時間がなくて読めなかったが、20184月のリニューアルで蔵書3万冊のブックラウンジができたと聞き、再訪した。

800平方㍍の旧ロビーは、アンティークな家具や調度品が配置され、シックに生まれ変わっていた。流れるのはシャンソン。「大正ロマンと文学が生み出す知的空間をコンセプトに、ターゲットを家族連れから中高年層に移しました」と同館マネジャーの高山大秦さんは話す。


赤帯、青帯の文庫が向かい合わせに並ぶ「岩波の回廊」は、諏訪出身の岩波文庫創設者、岩波茂雄へのオマージュ
赤帯、青帯の文庫が向かい合わせに並ぶ「岩波の回廊」は、諏訪出身の岩波文庫創設者、岩波茂雄へのオマージュ

太宰治、斎藤茂吉らが来湯

蓼科 親湯温泉と文学との関わりは深い。蓼科出身の歌人、篠原志都児の招待で小説家の伊藤左千夫らが宿泊、蓼科の様子を作品で紹介したのを契機に、大正~昭和初期には、太宰治、斎藤茂吉ら多くの文人が訪れ、初代社長の柳澤幸衛氏と親交を深めた。現社長の4代目幸輝氏も大の読書家、蔵書家であり、今回の改装には「当時の知的な雰囲気を再現し、蓼科の地域性をアピールしたい」との思いが込もる。自らの蔵書も含め新たに2万冊の書籍を加え、32000冊から成る「みすずラウンジ&バー」が誕生した。

近代文学、現代文学、古典、百科事典、アート、コミックとジャンルは幅広い。モーリス・ルブランのルパンシリーズ「奇厳城」など、子どもの頃に夢中になった本を見つけ、懐かしさが込み上げる。


客室の壁のくぼみにもさりげなく本が
客室の壁のくぼみにもさりげなく本が

バーラウンジでも読書を

気が付くと予約していた露天風呂の時間。宿泊客は無料で30分間、森を望む湯をひとり占めできる。

夕食は、渓流のせせらぎが聞こえる個室レストランで。「リニューアルの際、大宴会場を43部屋の個室に改装しました。おひとり様も大切なお客様です」と高山さん。

蔵元直送の地酒を堪能したあとブックラウンジに戻り、バーカウンターに座る。約2500冊の岩波文庫が並ぶ「岩波の回廊」から数冊を選び、バーボンのグラスを片手にページをめくる。

初めて岩波文庫を開いたのは中学1年の夏。背伸びして夏目漱石「こころ」を読んでみた。当時はチンプンカンプンだった記憶しかないが、年を取るにつれて岩波文庫の価値が分かってくる。


「みすずラウンジ&バー」は、みすず書房の創業者、小尾俊人が茅野市出身であることにちなみ命名
「みすずラウンジ&バー」は、みすず書房の創業者、小尾俊人が茅野市出身であることにちなみ命名

のんびり連泊プランも

翌朝は早起きして「星降るガーデン」を散歩。その名の通り、満天の星を観賞できる庭だが、親湯ゆかりの文人らの歌碑を眺めながら春の冷気に触れるのも気持ちいい。

畳敷きの大浴場で汗を流し、個室レストランで朝食をとる。2018年秋からは連泊プランも設け、ランチの提供も始めたという。「よし、ここに連泊して原稿が書けるような身分になるぞ」と心に決めて宿を出た。

文/天野久樹


貸切露天風呂で思索にふける
貸切露天風呂で思索にふける
蓼科ならではの素朴な山里料理が楽しめる夕食の和メニュー
蓼科ならではの素朴な山里料理が楽しめる夕食の和メニュー

<施設データ>

蓼科 親湯温泉 TEL0266-67-2020

https://www.tateshina-shinyu.com/

(出典 「旅行読売」20195月号)

(ウェブ掲載 201911月7日)


Writer

天野久樹 さん

1961年、秋田市生まれ。過去に全国紙の運動部記者として、大相撲やモータースポーツ、アマチュア野球などを取材。現在は月刊「旅行読売」で、特集面の取材や全国観光ニュース情報などを担当している。イタリアの国立大学(ペルージャ外国人大学イタリア語・イタリア文化プロモーション学科)を卒業したキャリアを活かし、イタリア語の翻訳も行っており、訳書に「アイルトン・セナ 確信犯」(三栄書房)がある。