大阪の新しいアートシーン 藤田美術館~大阪中之島美術館
「蔵の美術館」として親しまれてきた藤田美術館の新たな土間。右側が「あみじま茶屋」
川辺に誕生した二つの美術館
2025年の万博開催に向けて都市空間が変化し続ける大阪は、刺激に満ちている。2022年春には旧淀川の川筋に二つの美術館がオープンし、誰もが気軽に立ち寄れる場として新風を届けている。一方で商業の中心として発展してきた界隈には歴史的建造物も多い。涼風の吹く季節に、水辺のアートさんぽに出かけよう。
大阪城北詰駅の3番出口を出ると左手にガラス張りの建物があり、館内で憩う人の姿が見える。4月1日にリニューアルオープンした藤田美術館だ。「お茶をするために来館されるお客様もいらっしゃいます」というスタッフの言葉どおり、「土間」と呼ばれるロビーは光あふれる空間。その中で重厚感を放つ蔵の扉に引き寄せられ、展示室へ。
同館は実業家・藤田傳三郎(でんざぶろう)親子による東洋古美術のコレクションを公開するため、1954年に開館。旧藤田家邸宅の蔵を展示室に、春・秋の限定公開を行ってきたが、建て替えを経て通年開館の美術館として生まれ変わった。所蔵品は国宝9件を含む約2000件。国宝「曜変天目(ようへんてんもく)茶碗」をはじめ、茶道具の名品がそろう。
展示室では常に3種のテーマ展示が公開されており、10月から12月にかけたは「掌」「獣」「奈」を鑑賞できる。作品に集中できるよう、解説は掲示されていない。理解を深めるなら、学芸員による展示解説に参加するのもいいだろう。鑑賞後は庭園散策をして、土間の「あみじま茶屋」へ。目の前で点(た)てられた抹茶と焼きたての団子でひと休み。
次なる目的地までは、のんびり水辺を歩きたい。藤田美術館や隣接の藤田邸跡公園は、大川沿いに広がる毛馬(けま)桜之宮公園の一部でもあり、木々の緑を見ながら南西方向に進むと川沿いに出る。南岸の緑道は川崎橋で途切れるので、ここで対岸に渡ろう。橋の途中で振り返ると大阪城が見えた。
アートの島と呼ばれる中之島へ
天満(てんま)橋、天神橋、難波橋。下流に向かうと順に現れるのが「浪華(なにわ)三大橋」だ。江戸時代には「浪華八百八橋」と称され、水運と多くの橋が天下の台所の発展を支えた。そんな歴史を思いつつ、大名の蔵屋敷が並んでいたという中之島が見えたら、天神橋のたもとから橋上へ。橋中央のスロープから下りられる中之島公園は、5月と10月のバラで有名だ。
東西約3キロの中洲である中之島には、文化施設や歴史的建造物がひしめく。赤レンガが目を引く大阪市中央公会堂は1918年の竣工。建物は国の重要文化財で、今も市民が集う場として活用されている。レストランでランチにしたら、川沿いをさらに西に歩く。
上流で大川と呼ばれる旧淀川は、二手に分かれる中之島で北が堂島川、南が土佐堀川となる。堂島川に面し、黒い箱のような外観で佇(たたず)むのが大阪中之島美術館だ。構想から約40年を経て、2月2日にオープンした。収蔵作品は19世紀以降の近代・現代美術、デザインを中心に6000点を超える。2023年1月9日まで「ロートレックとミュシャ パリ時代の10年」開催。
中之島に美術館の多い理由を広報担当者に尋ねると、「具体の活動拠点が中之島にあったことも関係しているかもしれません」とのこと。具体美術協会は1950~70年代に日本の前衛美術を牽引(けんいん)した美術家集団。10月22日から隣の国立国際美術館と合同開催される「具体」の展覧会も楽しみだ。
締めくくりは対岸の福島(ほたるまち)港に向かい、中之島リバークルーズを体験。ライトアップされた護岸やレトロ建築は、水上から眺めるといっそう美しい。
文/内山沙希子 写真/酒井羊一
(WEB掲載:2022年11月17日)
藤田美術館
大阪市都島区網島町10-32/TEL:06-6351-0582
大阪中之島美術館
大阪市北区中之島4-3-1/TEL:06-6479-0550
中之島ソーシャルイート アウェイク
大阪市北区中之島1-1-27 地下1階/TEL:06-6233-9660
中之島リバークルーズ
TEL:06-6441-0532(一本松海運)