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鉄道で行く「ヒト、モノ、トキをつなぐ木曽檜の道」〜尾張藩と木曽の山林〜

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鉄道で行く「ヒト、モノ、トキをつなぐ木曽檜の道」〜尾張藩と木曽の山林〜

歴史ロマンにひたり、昔町を散策できる奈良井宿

日本三大美林の一つに数えられる木曽檜。木曽の豊富で優れた木材は江戸城の大改修や名古屋城築城の際にも用いられた。木曽の山林と尾張藩の歴史をひもときながら、JR中央線の旅を紹介しよう。

名古屋城<本丸御殿>、徳川美術館の入場券(セット)が抽選であたるアンケートは、記事の最後にあります。

家康が重要視した木曽の山林

あまり知られていないかもしれないが、江戸時代、信州木曽谷(長野県の木曽地域)は尾張藩領だった。

江戸城の大改修や駿府城造営の際に木曽檜を用いた徳川家康は、木曽の豊かな山林を重要視していたという。そして、家康は実子に尾張国を支配させる。土地が狭く水害を受けやすい清須城から名古屋への移転を決めた家康は、加藤清正らに名古屋城築城を命じた。

徳川御三家筆頭の尾張藩の初代藩主は、家康の九男・義直である。1610年に築城を始めた名古屋城は、15年に天守や本丸御殿がほぼ完成。名古屋城築城でも木曽地域、及び裏木曽と呼ばれる木曽地域に接した今の岐阜県中津川市エリアの良質の木曽檜が多く使われた歴史がある。

名古屋城
尾張徳川家の居城となった名古屋城
「木曽式伐木運材図会」
「木曽式伐木運材図会」角乗(かくの り)之図(中部森林管理局所蔵)。角乗とは、水上の材木の上で曲芸を披露すること。余興ではあるが、運材労働者の粋な姿が描かれている

尾張藩による日本初の山林保護政策

しかし、その頃、各地で近世城郭の築城が進められたため、木曽の山林の枯渇が心配されるようになる。そこで尾張藩は、林政改革に取り組む。檜、アスナロ、サワラ、ネズコ、高野槙の、いわゆる木曽五木(のちにケヤキも加わる)を御禁制として伐採を禁じる。

木曽氏の家臣だった山村氏が代官となり、木曽地域を統治した。代官屋敷のある木曽谷の中心地・木曽福島には福島関所が置かれ、山村氏はその関所を預かりながら、江戸の初めから幕末まで、13代にわたり代官を務めた。また、木曽福島の隣の上松には尾張藩直轄の材木役所を設け、材木奉行が常駐、さらに裏木曽には山守を置いて、それぞれ木曽山林の管理にあたらせた。

「伐採を制約した尾張藩が、わが国で最初に山林保護をしたといえます」と名古屋城調査研究センター主査の原史彦さん。20年に一度の伊勢神宮遷宮の際、御神木として檜を伐り出してきた歴史をもつ上松町の赤沢自然休養林では、尾張藩の山林保護政策によって、今日、樹齢300年前後の木曽檜が林立している。

 

「木曽式伐木運材図会」株祭(かぶまつり)之図(中部森林管理局所蔵)。伐採した切り株に木の先端をさして、山神に感謝する儀式。木を大切にする杣人(きこり) の思いが伝わってくる

木曽の木々を運ぶのに重要な役割を担ったのが、水量豊かな木曽川だ。山奥で切り出された木材は木曽川の支流から本流へと運材し、河口に近い名古屋へと流送されていった。「木曽式伐木運材図会」(作者不詳)には、江戸後期頃の伐木、搬出、木曽川での流送、木場での集積の情景などが、絵図と詞書で説明されていて、当時の様子をうかがうことができる。

しかし、明治末に中央線が木曽谷に開通すると、各地で森林鉄道が敷かれ、木曽川から陸送へと移行していく。一方で、明治以降も木曽の山林の大部分は官有林、皇室の御料林として、戦後は国有林として大切に守られてきた。

鉄道に乗り、山深い木曽谷を巡る

そのような歴史的背景を知って旅すると、初めて訪れる地はもちろん、かつて訪れた観光地もまた違って見えてくるだろう。木曽谷を通るJR中央線沿線には、歴史を今に伝える見所が数多く点在する。途中下車をして、伝統や自然の息吹に触れたい。

木曽と中央線
木曽川の上流から中流域 へと並行して走る中央線。列車に揺られ、尾張藩と木曽の歴史をたどる旅へ

木曽漆器の里・木曽平沢、旧中山道の宿場町の奈良井宿と妻籠宿の3か所は重要伝統的建造物群保存地区に選定され、古い町並みを残す。木曽路に3か所も重伝建地区が存在するのは、尾張藩の山林保護政策同様、この地域の人々にモノを大事に受け継ごうとする気持ちが強いからだろうか。島崎藤村生誕の地・馬籠宿も風情ある家並みが石畳に沿って続いている。

妻籠宿と馬籠宿とを結ぶ緑豊かな旧中山道は、かつての旅人気分が味わえる。侍が通った道でもあることから「サムライ・トレイル」とも呼ばれ、外国からのハイカーにも人気だ。

山村代官屋敷や復元した関所がある福島宿、森林浴発祥の地とされ檜林が広がる赤沢自然休養林もおすすめだ。上松駅と倉本駅との間では、木曽川と花崗岩がつくり出す奇勝・寝覚の床が車窓からも楽しめる。

終点の名古屋では江戸期の高い技を今に伝える名古屋城本丸御殿、徳川美術館を訪れ、尾張藩の威容を物語る建築美、工芸美を堪能したい。

サムライトレイル
薫風が心地よいサムライ・トレイル(妻籠宿~馬籠宿)。約8キロ、3時間のコースに男滝(おたき)・女滝(めたき)などの見所や、一石栃白木改番所跡には囲炉裏を切った無料休憩所がある。途中の石畳や石仏も往時をしのばせる

木曽檜がつなぐ伝統

名古屋城調査研究センター主査・原史彦さん

尾張藩のさまざまな記録は明治維新以降も大切に保管されています。14代尾張藩主・慶勝(よしかつ)は、当時の最新技術であった写真に興味を持ち、自らも技術を取得して撮影していました。そのため、殿様しか入ることができない御殿奥の空間写真も残されています。空襲で焼失した建物の詳細な設計図や写真も残り、材質までわかるからこそ、推測や創作ではない、本丸御殿が忠実に再現できたのです。歴史は過去のものではなく、現在までつながっています。尾張藩の政策によって残された木曽の美林をもとに今の本丸御殿があります。ぜひ、名古屋城で脈々とつながっている伝統的な景観を体感してください。

原さん
原史彦さん

木曽檜を訪ねる鉄道旅

木曽平沢駅

ちきりや 手塚万右衛門商店

ちきりや
ちきりや 手塚万右衛門商店

奈良井駅

木曽平沢は江戸初期より木曽漆器の産地として栄え、今も約80軒の漆器職人の店が連なる。その一角にある寛政年間(1789-1801)創業の店。現当主・7代目の作品をはじめ多彩な漆器を販売。名古屋城本丸御殿復元の際、 格天井などに蒔絵(まきえ)を 施した、手塚希望(のぞみ)さ んによる蒔絵体験も受け付けている。体験は箸1500円〜、 小皿3000円〜(要予約)。

TEL:0264-34-2002/10時30分~16時/不定休 木曽平沢駅から徒歩2分

奈良井宿

2階が1階よりせり出た、出梁(だしばり)造りの建物など、古い家並みが残る。南に木曽路の難所・鳥居峠を控え、「奈良井千軒」と呼ばれるほどにぎわった。江戸期より盛んだった木曽の木材を使った塗櫛や曲物を販売する店も多い。

TEL:0264-34-3160(奈良井宿観光案内所)/奈良井駅からすぐ

奈良井宿
奈良井宿

木曽福島駅

山村代官屋敷

木曽代官の山村邸のうち江戸時代の下屋敷が現存、公開。裃や掛軸など、山村家に伝わる資料を展示。屋敷内にキツネのミイラを御神体とする「お末社様」を安置する。江戸時代当時の築山泉水式庭園も見事だ。

TEL:0264-22-3003/8時30分~16時30分/年末年始、冬季の木曜休/300円/木曽福島駅から徒歩20分 

山村代官屋敷
山村代官屋敷

七笑酒造

旧中山道沿い、福島宿にある酒蔵「七笑(ななわらい)酒造」。麹造りからすべて手作業にこだわる。山林の治水がよいから水もよい。木曽山系の清らかな伏流水で醸す淡麗の酒は、どの料理にもよく合う。地元産酒米・美山錦100%使用の純米酒(写真右)は720ml 1430円。

TEL:0264-22-2073/8時~18時(酒蔵見学は要予約)/1月1日休/木曽福島駅から徒歩15分

七笑酒造
七笑酒造

上松駅

寝覚の床

全国でも珍しい山間部に浦島太郎伝説を残し、それが名の由来という。木曽川の激流が岸辺の花崗岩を侵食してできた渓谷美は、国の名勝。

TEL:0264-52-1133(上松町観光協会)/上松駅から徒歩30分

寝覚の床
寝覚の床(写真提供:上松町観光協会)

赤沢市自然休養林

林業が盛んで「檜の里」ともいわれる上松に広がる休養林。森林セラピー認定の森でもあり、初心者から健脚向けまで七つの散策コースがある。森林鉄道は赤沢の渓流沿いを走り、爽快だ。

TEL:0264-52-1133(上松町観光協会)/入園自由(開園は4月29日~11月7日。森林鉄道の運転日は要問い合わせ/900円~)/上松駅からバス30分、赤沢自然休養林下車すぐ(運転日注意)

赤沢自然休養林
赤沢市自然休養林(写真提供:上松町観光協会)

南木曽駅

妻籠宿

1976年、全国に先がけて重伝建地区に選定。江戸時代にタイムスリップしたかのような町並みが続く。1877年に建て替えられた脇本陣奥谷(歴史資料館)は総檜造りの豪壮な建物だ。

TEL:0264-57-2727(南木曽町観光協会)/南木曽駅からバス7分、妻籠下車すぐ

妻籠宿
妻籠宿

丁兼(澤田屋)

妻籠宿内にある和菓子店。大粒の栗の渋皮煮を栗きんとんのそぼろで巻いた、木曽御用林1本2570円(写真右)は木曽檜をイメージした菓子。上質な栗を使った栗きんとんや、そばまんじゅうも名物。米粉餅であんを包み、朴の葉で巻いた朴葉巻(写真左)は、木曽地域に新緑を告げる菓子。販売は4月22日~6月末、5個入り850円。

TEL:0264-57-4105/8時30分~17時/水曜休/南木曽駅からバス8分、妻籠橋下車徒歩2分

澤田屋
丁兼(澤田屋)の銘菓

中津川駅

馬籠宿

木曽谷にある11の旧宿場町のうち、唯一、坂道に沿って家並みが続く。島崎藤村生誕の地であり、島崎家は馬籠宿の本陣を務めた。現在は藤村記念館として公開。

TEL:0573-69-2336(馬籠観光案内所)/中津川駅からバス25分、馬籠下車すぐ

馬籠宿
馬籠宿

恵盛庵

馬籠宿を上り切ったところにある人気のそば店・恵盛庵(けいせいあん)。信州産のそばの実を石臼でひき、手打ちにこだわったそばはコシがあり、香り高い。ざるそば1000円は二枚重ねでボリューム満点。

TEL:0573-69-2311/11時~14時30分(そばがなくなり次第終了)/不定休/中津川駅からバス25分、馬籠下車徒歩15分

恵盛庵
恵盛庵

名古屋城駅

名古屋城 本丸御殿

1945年の名古屋空襲により江戸時代の建物を焼失。59年に天守閣が再建された。本丸御殿は9年の歳月をかけ復元し、2018年全体公開。本丸御殿の復元では江戸時代同様、木曽や裏木曽の檜が使われた。平屋建ての御殿は30を超える部屋数を誇り、最も格式が高い上洛殿の建物は極彩色の彫刻欄間や天井の板絵など豪華絢爛。天守閣は現在閉館中で、木造天守の復元準備中。

TEL:052-231-1700/9時~16時30分(本丸御殿、西の丸御蔵城宝館は~16時)/12月29日~1月1日休/500円/地下鉄名城線名古屋城駅から徒歩5分

本丸御殿
本丸御殿の玄関
名古屋城 本丸御殿

徳川美術館

徳川家康の遺品や尾張徳川家歴代の遺愛品の他、「源氏物語絵巻」をはじめ国宝9件、国の重要文化財59件などを収蔵。武具、刀剣、嫁入り道具など尾張徳川家に伝わる名品を中心に展示している。名古屋城二之丸御殿にあった能舞台が檜を用いて館内に再現されている。

TEL:052-935-6262/10時~16時30分/月曜(祝日の場合は翌平日)休 ※GWは開館、12月16日~1月3日休/1600円/大曽根駅(中央線など)から徒歩10分

徳川美術館
徳川美術館

名古屋城<本丸御殿>、徳川美術館の入場券をセットでプレゼント!

今回の「木曽檜の道」の記事を読んで、アンケートに答えると、抽選で名古屋城 本丸御殿、徳川美術館の入場券をセットで15人にプレゼントいたします。応募締め切りは2023年4月30日まで。

※アンケートは、終了しました


協力:名古屋市観光推進課

 

(出典:「旅行読売」2023年5月号)

(WEB掲載:2023年3月27日)

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Writer

旅行読売出版社 メディアプロモーション部 さん

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