【低山と温泉へ】展望台から東京湾、三浦半島を見渡す 鋸山(1)<標高329m・歩行距離5.85キロ・歩行時間2時間50分>

麓から見た鋸山。標高の割に高く険しく見える
石材産出により異彩を放つ山容、切り立った岩山がまるでノコギリの歯
往々にして山の名前は即物的だ。切り立った岩山がノコギリの歯を空に向けたように見えるから「鋸山」。千葉県を代表する景勝地の一つであり、標高400メートルに満たない低山ながら見かけは険しく雄大だ。とはいえロープウェイを使えば容易に上れるため、手軽な観光地でもある。恥ずかしながら千葉県民の私も、登山道があるとは知らなかった。異彩を放つ山容の歴史も分かる道らしい。先入観を捨てて、いざ標高329メートルの山頂を目指した。
鋸山ロープウェーは山麓駅と山頂駅を4分で結ぶ
山頂へは「車力道(しゃりきみち)コース」と「関東ふれあいの道コース」の二つの登山道がある。2019年の台風により倒木や土砂崩れなどの被害があったが、ボランティアによって整備され復興した道だ。勾配を考慮すると、車力道で登り、関東ふれあいの道を下ると負担が軽いと聞いた。浜金谷(はまかなや)駅から歩き始めて10分ほど、二つの道の分岐点から車力道に入った。
大正期に建てられた駅舎が残る浜金谷駅
車力道は、鋸山の山頂付近で切り出された石を運び出した道だ。鋸山は「房州(ぼうしゅう)石」と呼ばれる凝灰質(ぎょうかいしつ)砂岩でできていて、江戸時代末期から採石が盛んになった。加工しやすく火に強い房州石は、横浜港やお台場の建造にも使われたという。その採石の跡が、岩肌がむき出しでノコギリの歯のような山容なのである。
苔むした岩肌が続く車力道
男たちが切り出した房州石を麓へ運ぶのは車力と呼ばれた女性たちの仕事だった。「ねこ車」という荷車に載せ、一人で200キロを超える石材を運んだという。車力道はなかなかの急坂。周囲には杉林や雑木林が広がり、その切れ間から東京湾が見え隠れする。当時の重労働を想像しながら登ると切通(きりどお)し跡が見えてきた。
岩を切り出した痕跡が縞模様となって残っている切通し跡
この切通しは、石材を搬出するために岩壁を切り抜いて作った道。石を切り出した痕跡は、今となっては現代アートにも見える。ここから「東京湾を望む展望台」までは最後の急坂。足元の石段は、道を作ってから石を置いたのではなく、岩壁を階段状に加工したと思われる。房州石を踏みしめ、手すりを頼りに登った。
文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝
【低山と温泉へ】展望台から東京湾、三浦半島を見渡す 鋸山(2)<標高329m・歩行距離5.85キロ・歩行時間2時間50分>へ続く(7/8公開)
【登山データ】
■交通 [鉄道]内房線浜金谷駅からすぐ[車]富津館山道路富津金谷ICから国道127号経由2キロ(P有料あり)
■問い合わせ/TEL:0439-80-1291(富津市商工観光課)
アドバイス
弁当を持参して展望台で食べるのもおすすめ。浜金谷駅近くにコンビニがある。急坂や足場の悪い所もあるので、ストックなどを持参した方が無難。上り下りのいずれかでロープウェイを使うことも考えたい。トイレは関東ふれあいの道に1か所あるのみ。
※記載内容は掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2025年6月号)
(Web掲載:2025年7月7日)