【低山と温泉へ】吉田類さんのおすすめ低山5座

藻岩山を歩く吉田類さん
これまでに110座を超える低山に登っている吉田類さんに、眺望、自然、歴史などの視点から特に印象に残っている5座をピックアップしてもらった。ロープウェイなどが利用できる山もあり、初心者でも登りやすいので、低山の魅力を知るにはうってつけだ。
よしだ るい[酒場詩人]
1949年高知県生まれ。エッセイスト、イラストレーター。俳人の顔も持つ。BS-TBS「吉田類の酒場放浪記」、NHKBS「にっぽん百低山」などテレビやラジオに出演。著書に『酒場詩人の美学』(中央公論新社)、『酒は人の上に人を造らず』『酒場詩人の流儀』(共に中公新書)、『酒場歳時記』(NHK出版)ほか。「にっぽん百低山」の書籍化第3弾が2025年秋刊行予定。高知県観光特使、加東市産山田錦PR大使、「ふくしまの酒マイスター」などを務める。
藻岩山 ◎北海道・札幌市
北の大地で身近な原生林の山
藻岩山(もいわやま)ではエゾリスを間近に見られることも
山麓から山頂までロープウェイとケーブルカーで約10分ですが、登山道が五つあり、僕は何十回となく登っています。人気は慈啓会病院前コース。山そのものが原始林として保護されているので、エゾリスを間近に見ることもできます。
以前、エゾシカがものすごく甲高い声で鳴きながら駆け上がってきたことがありましたが、ヒグマに襲われて逃げてきたところでした。山頂の展望台からはダイナミックな山並みと札幌の街並みを見渡せます。
■地下鉄円山公園駅からバス8分、慈啓会前下車徒歩2分(藻岩山ルート入口)/北海道縦貫道札幌ICから12キロ(観音寺駐車場)/TEL:011-211-2522(札幌市みどりの管理課)
月居山 ◎茨城・大子町
紅葉の美しさと幕末史に触れる
春の新緑から秋の紅葉まで登山道は美しい景観に包まれる
日本三名瀑の一つに数えられる袋田の滝。第1観瀑台から滝川へ下り、つり橋を渡ると月居山(つきおれさん)登山道への急な階段があります。晩秋は紅葉が美しい。11月上旬〜中旬が見頃です。
幕末期に水戸藩の過激な尊攘(そんじょう)派が起こした天狗(てんぐ)党の乱では月居峠も戦場になったそうです。幕府の追討軍が峠の上から落としたといわれる巨岩が今も残っており、その間を通ります。歴史を感じさせるトレッキングです。茨城名物のけんちんそばや地酒「家久長(かくちょう)」の純米酒も楽しみ。
■水郡(すいぐん)線袋田駅からバス10分、滝本下車徒歩10分/常磐道那珂ICから国道118号経由42キロ(町営無料駐車場)※Pから徒歩20分/TEL:0295-72-0285(大子町<だいごまち>観光協会)
大岳山 ◎東京・奥多摩町、檜原村
修験道の険しさとワインの誘惑
長尾茶屋では「天空のソムリエ」おすすめのスペインワインを
ケーブルカーを利用して御岳(みたけ)山駅からスタート。徳川家康ゆかりの武蔵御嶽神社に詣で、大岳山(おおだけさん)方面へ歩き始めます。苔むした岩と美しい渓谷が織りなすロックガーデンを経て、綾広(あやひろ)の滝に出ると鳥居が立ち、修験道の山岳修行の地だったことが分かります。
山頂からは奥多摩の山々の絶景が望めます。帰路の楽しみは長尾平にある行きつけの長尾茶屋。「天空のソムリエ」川﨑直之さんおすすめのスペイン産ワインが絶品です。
■青梅線御嶽駅からバス10分、ケーブル下下車、御岳登山鉄道滝本駅からケーブルカー6分で御岳山駅/圏央道青梅ICから18キロ(滝本駅駐車場)/TEL:0428-78-9363(東京都御岳ビジターセンター)
六甲山系 ◎兵庫・神戸市
日本三大夜景を堪能する山塊
掬星台は星を掬(すく)えそうなほどの美しい夜景が見られる
六甲山系(ろっこうさんけい<六甲山地>)は、神戸市の中央部を北東から南西方向へ(宝塚から須磨まで)、約30キロ延びる山地。標高931メートルの六甲山最高峰は変化に富んだ表情を見せる登山道と山頂からの眺望が絶品です。
その南西にある摩耶(まや)山は、空海が天上寺に釈迦(しゃか)の生母・摩耶夫人(ぶにん)像を安置したことが名前の由来。山上の掬星台(きくせいだい)は神戸から大阪にかけての眺めが素晴らしく、特に眼下の夜景は「1000万ドルの夜景」と称されるほどきらびやかで美しい。
江戸時代、俳人も多く訪れ、僕の好きな与謝蕪村(よさぶそん)は、夕暮れ時、摩耶山から見下ろす一面の黄色い菜の花を見て「菜の花や月は東に日は西に」の句を詠みました。文化的にも豊かな低山です。
■東海道線三ノ宮駅からバス30分、摩耶ケーブル下下車、徒歩5分(摩耶山上野道登山口)/阪神高速3号神戸線京橋出口から2キロ(三ノ宮駅)/TEL:078-230-1120(神戸観光局)
貫山 ◎福岡・北九州市
草原と石灰岩が織りなす奇観
貫山(ぬきさん)までは地下でつながった石灰岩が露出した草原を歩く
日本三大カルストの一つ、平尾台のカルスト台地に連なる低山です。突き出た石灰岩が羊の群れのように見える羊群原(うおうぐんばる)や石灰岩が雨や地下水に溶かされてできた窪地(ドリーネ)など独特の景観が楽しめます。
平尾台の中心に続く車道の終点、茶(ちゃ)ヶ床園地(とこえんち)が登山口で、その近くにある目白鍾乳洞は壮大な地球の物語を感じさせます。
■日田彦山線石原町駅からタクシー20分/九州縦貫道小倉南ICから国道322号経由12キロ(茶ヶ床園地)/TEL:093-453-3737(平尾台自然観察センター)
聞き手/田辺英彦 写真/藤川 満
(出典:「旅行読売」2025年6月号)
(Web掲載:2025年6月10日)