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【私の初めてのひとり旅】河瀨 直美さん サンクトペテルブルク(2)

場所
> サンクトペテルブルク
【私の初めてのひとり旅】河瀨 直美さん サンクトペテルブルク(2)

サンクトペテルブルクを案内してくれた若者と撮った記念写真 写真/河瀨直美さん提供

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ⒸLESLIEKEE

かわせ・なおみ[映画監督]
奈良市生まれ、現在も活動拠点とする。一貫してリアリティーを追求した作品で、カンヌ国際映画祭などで受賞歴多数。代表作は「萌の朱雀(すざく)」「殯(もがり)の森」「2つ目の窓」「あん」など。なら国際映画祭などで後進の育成にも尽力。東京2020 オリンピック公式映画総監督、ユネスコ親善大使、奈良県国際特別大使、2025 年大阪・関西万博のシニアアドバイザー兼テーマ事業プロデューサーを務める。新作劇映画が25 年に公開予定。

壮麗な美術館と跳ね橋、白夜の季節の美しい情景

【私の初めてのひとり旅】河瀨 直美さん サンクトペテルブルク(1)から続く

「かたつもり」は、高齢だった養母の日常をつづった非常にプライベートな映画でしたが、ロシアの人々がどういうふうに見てくれるか、とても楽しみでした。スクリーンに大写しになった養母の顔を真剣に見ている観客の後ろ姿を眺めながら、映画って国境を越えるんだなあと実感しました。

サンクトペテルブルクに約1週間滞在した間、アテンドしてくれたのは、私より少し年下の学生カップルでした。片言の英語とジェスチャーでのコミュニケーションでしたが、すごくよくしてくれました。

彼らと街を散策したときの情景も印象に残っています。市内を流れるネヴァ川は川幅が何百メートルもある大河でしたが、跳ね橋が架かっていて、大型船が通行するたびに開閉されるんです。白夜の薄明の中に橋が上下する様子がとても美しかった。ネヴァ川のほとりに立っているエルミタージュ美術館にも行きました。すごく大きくて立派な美術館で、収蔵品にも建物にも圧倒されました。

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ネヴァ川に架かる巨大な跳ね橋。夜景が美しい観光名所でもある(写真/ピクスタ)

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サンクトペテルブルク歴史地区と関連建造物群の一つとして世界遺産に登録されているエルミタージュ美術館(写真/ピクスタ)

彼らに「いつか日本に来たら私が案内するね」と話しましたが、「自分たちが日本に行くことはほとんど夢の話だ」と言っていました。ロシアの若者たちが置かれた状況というのは決して開放的ではないし、夢があってもそれを実現するためのルートがないのが現実だったのです。帰国後、彼らから手紙と一緒に写真が届きました。それは20代の若者同士の国境を越えた友情の証しでした。

2019年にモスクワの映画館で「河瀨直美監督特集」が開かれ、私も参加しました。現地の若者たちと対話した時、映画について学ぼうとする熱意を感じました。サンクトペテルブルクでアテンドしてくれたカップルもそうですが、ロシア人として自分のアイデンティティーを持って映画を作ってほしいなと今も願っています。

話/河瀨 直美 聞き手/田辺英彦


(出典:「旅行読売」2025年3月号)
(Web掲載:2025年7月6日)


Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

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