【私の初めてのひとり旅】登坂淳一さん 和歌山、大阪、北海道(1)

とさか・じゅんいち[フリーアナウンサー]
1971年、東京都生まれ。97年にNHK入局。和歌山をはじめ、大阪、東京、北海道、鹿児島の各放送局で勤務。2018年に退局してフリーアナウンサーに。テレビのアナウンサーやキャスターのほか、バラエティー番組などにも出演。22年にはCS放送のドラマ「スパイめし~異国グルメ潜入記~」で初主演。ブログ「白髪のパパ」では3歳と2歳の愛(まな)娘の成長と日常生活を発信中。
日本の北から南、ひとりでの赴任は終わらない旅のよう
大学卒業後、NHK に入局し、初任地は和歌山放送局でした。それまでの人生で和歌山県との接点はなく、ひとり暮らしも初めてでした。学生時代はひとりで旅をしたことはなく、それが長いひとり旅の始まりだったのかもしれません。
東京から新幹線で新大阪へ、そこから地下鉄で天王寺へ出て阪和線に乗り換えて和歌山へ向かいました。山中渓(やまなかだに)という駅を過ぎるとまさに渓谷の中を進んで行きます。峠を越えると田園風景が続き、紀の川を越えてすぐに和歌山市街に出ました。
「これから大丈夫だろうか」と社会人としてのスタートは9割が不安でした。市内に借りた部屋の窓からは山が見え、東京生まれの私にはその風景が新鮮でした。
新人時代のしばらくは、ネタを探して企画書を書くのが主な仕事だったので、平日と休日の区別なく県内を回ることもありました。龍神、湯の峰、那智勝浦などの温泉地や熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)へは中継も含めてよく訪れました。
特に高野山は車を借りてひとりでも行きました。途中には、紀ノ川に沿って鉄砲の根来寺(ねごろじ)や真田幸村ゆかりの九度山(くどやま)など歴史の舞台になった場所もあります。教科書で学んだことを目の当たりにすると、歴史を探訪している気がしました。
高野山は弘法大師が開いたという知識はありましたが、どんな所か最初は想像がつきませんでした。車で上っていくと、宿坊や寺院の建物などが現れ、急に街が出現したような感じがして驚きました。
初任地の和歌山でよく訪れた高野山奥之院(写真/ピクスタ)
印象的だったのは高野山奥之院です。一の橋から2キロ、老杉(ろうさん)などが林立し、20万基を超える墓や供養塔が並ぶ参道を歩きます。道中の空気は、熊野古道を歩いたときも感じましたが、自然の清々(すがすが)しさと厳かな気分で不思議な感覚に包まれました。灯籠堂には絶やさず灯している火があり、連綿と続く歴史の中で何かを求めて修行したり、参詣に来たりする人々の敬虔(けいけん)な気持ちが分かる気もしました。
話/登坂淳一 聞き手/田辺英彦
【私の初めてのひとり旅】登坂淳一さん 和歌山、大阪、北海道(2)へ続く(5/2公開)
(出典:「旅行読売」2025年2月号)
(Web掲載:2025年5月1日)