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【私の初めてのひとり旅】石井正則さん 白馬村嶺方峠(2)

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【私の初めてのひとり旅】石井正則さん 白馬村嶺方峠(2)

いしい・まさのり[俳優]
1973 年、神奈川県生まれ。お笑いコンビ「アリto キリギリス」として94 年にデビュー。現在は俳優やタレントとして映画、テレビ、舞台などで幅広く活躍する。趣味は多彩で自転車は12台を乗り分け、自転車活用推進研究会から「7代目自転車名人」に選ばれた。カメラの腕前もプロ級で今年3月に写真集『13(サーティーン) ハンセン病療養所からの言葉 』(トランスビュー)を出版。

 

二転三転する〝舞台〞下りもまた試練

【私の初めてのひとり旅】石井正則さん 白馬村嶺方峠(1)から続く

とにかく気温が下がったおかげで、自転車を降りることなくトンネルまでたどり着くことができました。前方には暗いトンネルの入り口が口を開けています。その先に待っているのは、あの有名な北アルプスの絶景。僕は少し興奮しながら、ペダルを回し、トンネルの中を進んでいきます。やがて、トンネルの向こうに光が見え始め、そして、その光を抜けた瞬間、そこにあったのは……。

まさかの土砂降りでした。

天候が良ければこんな絶景がトンネルの先に待っているはずだった(写真/ピクスタ)

山という演出家がこれほどまでの気分屋だとは知りませんでした。ほんの少し前までの日差しが、うそのように消え去り、ねずみ色の世界が目の前に広がっています。シーンが変わるどころか、これはもう全く別の舞台です。気が付けば僕は笑っていました。この状況があまりに滑稽で、そして妙に心地よかったのです。

その時、ふと「記念写真を撮ろう」と思いました。しかし、スマホを立てるスタンドがない。周りを見渡すと、足元にチタンのマグカップが転がっていました。それは誰かが置き忘れたものでしょう。ちょうどスマホを立てられる深さがあり、それで記念写真を撮ることにしました。その後は、白馬駅に向かってただ下るだけでした。しかし小さなタイヤは滑りやすく、手がかじかむ寒さの中ブレーキをかけ続けなければならない下りは、思った以上に神経がすり減る厳しいものでした。上りよりも、下りの方がずっとずっときつかったです。

雨に打たれながら愛車とともに記念写真
峠からの下り坂は濡れた路面に気を付けながらの苦しい走行になった

下りながら「人生、山あり谷あり」という言葉が頭に浮かび、そして僕は思いました。山も谷も、どちらも大変で、でもだからこそ深く心に刻まれるものだと。

話/石井正則 聞き手/山脇幸二


(出典:「旅行読売」2024年12月号)
(Web掲載:2025年3月7日)


Writer

山脇幸二 さん

2022年6月に編集部に着任し、8月から編集長。読売新聞の記者時代は27年にわたって運動部でスポーツ取材に明け暮れた。一時は月の半分近くが出張という生活で、旅行しながら仕事しているような状態だった。今やその旅行が仕事になろうとは…。趣味はロック鑑賞で、ライブやフェスに通うことで身も心も若さを保とうと悪あがきする。矢沢永吉さんを尊敬し、ともに歳を重ねていける幸せをかみしめる日々。

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