【中井精也のゆる鉄写真館】大糸線
厳しいからこそ美しい、白馬の夜明け
夜明けが近づき、幻想的な白馬の山々が姿を現したとき、
その美しさに思わず息をのみました。
右側の優しい山容は、標高2696メートルの唐松岳。
左側に荒々しく聳(そび)えるのは、標高2814メートルの五竜岳。
どちらも後(うしろ)立山連峰の中央に位置する、名山中の名山です。
やがて現れた大糸線の始発列車は、
僕の作品に、幻想的な光の孤を描いてくれました。
そのラインがキラキラと煌(きら)めくのは、
始発列車のパンタグラフが、架線に降りた霜を
削るときに発生するアーク放電によるもの。
厳冬期に列車を走らせる過酷さと、厳しいからこそ輝く風景の美しさ。
その両方を写真に収めることができた気がして、
お気に入りの作品になりました。
文・写真/中井精也
1967年、東京生まれ。鉄道写真家。独自の視点で鉄道を撮影し、『ゆる鉄』など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。甘党。著書・写真集に「1日1鉄!」(インプレス)など。2015年講談社出版文化賞・写真賞受賞。
(出典:「旅行読売」2024年2月号)
(Web掲載:2024年10月8日)