豊かな自然と歴史が育む食文化を訪ねて おいしい静岡(1)
コートいらずのポカポカ陽気だった2月中旬に、静岡のガストロノミーを巡る旅に出かけました。1300種を超える魚類が生息する駿河湾に面し、日照時間が長く、温暖な気候に恵まれた静岡県は、農林水産物339品目、水産物100品目と生産される食材が多種多様で「食材の宝庫」とも言われます。そんな静岡県の中部エリア(静岡市・藤枝市)で見つけた歴史薫る食文化をご紹介します。
家康ごのみ、門外不出とされた有東木のワサビ
まず訪れたのは、日本のワサビ栽培発祥の地として名高い静岡市葵区の有東木(うとうぎ)地区。静岡駅から北へ車で約1時間、安倍川に沿ってうねうねとした県道を上っていくと、標高600メートルの山あいにある静かな集落にたどり着く。ここ有東木のワサビは17世紀初頭に栽培が始まり、駿府にいた徳川家康に大変気に入られ、門外不出とされた。1750年に有東木から伊豆にワサビの苗がもたらされてから、伊豆は一大ワサビ産地に成長。現在では有東木を含む安部川上流地区と伊豆地区がワサビ生産の全国シェア70%を誇る。400年続くワサビ農家の17代目・白鳥義彦さんに自慢のワサビ田を見せてもらった。
山の斜面に造られたワサビ田
ワサビの収穫体験の様子
白鳥さんのワサビ田は合計で1万3000平方メートル、10人のスタッフで栽培を行っている。「ワサビはほかの生物の生育を阻害する物質を出すので、水が流れるところでないと自分の毒でやられちゃうんです。だからワサビ田には水が必要なんです」と白鳥さん。畑に流れる湧き水は1年を通して15度ほど、ひたひたと畑を覆っている。苗を植えたら1年半ほどで収穫。「ワサビは年中とれますが、ワサビにとって厳しい環境となる夏や冬に収穫するほうが、辛みが強くおいしいです。どれでも1本、取ってみていいですよ」とすすめられ、ワサビの収穫にチャレンジ。茎をまとめてしっかり持って、ワサビが折れないようにそーっと引き抜く。細かい根っこがびっしりと張って、すんなりとはいかないが、力はさほど必要ない。土を洗い流すと大きなワサビの根が姿を現した。
ワサビ農家の白鳥義彦さん
鮮やかな黄緑色をしたすりたてのワサビ
すりたてのワサビは甘みの後に、爽やかな辛みがすーっと鼻に抜けていく。おいしい! 「ワサビは根のほうが辛いんです。こだわりのすし職人さんは、上下それぞれすってブレンドする人もいます」。すしのグローバル化もあり、白鳥さんの農場には韓国やイギリス、スペイン、アメリカの業者などからも注文が舞い込むという。100年以上も門外不出だったワサビは、今や各国の美食家をうならせ、世界をかけ巡っている。
わさびの門前(白鳥さんのワサビの販売サイト)
静岡市葵区有東木691/TEL:054-298-2121
揚げたてサックサクの桜エビのかき揚げ
駿河湾の宝石!サックサクの桜エビのかき揚げ
続いて、駿河湾でしか取れない桜エビを味わいに、1887年創業の海産物問屋直営の「ゆい桜えび館」を訪れた。席につくと揚げたての大きなかき揚げが登場。塩をふってひと口。サックサクの食感で、かむほどに桜エビの甘みがジワーッと出てくる。風味と甘みの強さに驚いた。明治時代の中頃から続く桜エビ漁は春と秋に行われ、春漁はまもなく3月下旬から始まる。春に取れる桜エビは大きめで身がふっくらしているそう。とれたての桜エビを味わいに再訪しよう!と心に誓った。
桜エビがたっぷり入った釜めしと刺し身
9時~16時30分/静岡市清水区由比673-1/TEL:054-375-2010
※食事は団体客向けのみ。売店では桜エビ商品を多数取りそろえる。隣接して削り節直売所もあり、人気のイワシ削り節の製造も見られる。
清水区の歴史スポット
東海道由比宿には歴史薫るスポットが残っている。写真は「正雪紺屋」
由比宿の本陣跡ににある静岡市東海道広重美術館。江戸時代の浮世絵師・歌川広重の作品を中心に約1400点の版画などを収蔵する
清水区小島本町にある小島(おじま)藩1万石の「小島陣屋跡」。陣屋とは城を持てない小藩の藩主の生活と政治の場。2025年の大河ドラマ「べらぼう」に登場した恋川春町は小島藩士だった。ドラマ放映中は春町先生ファンが多く訪れたという
豊かな自然と歴史が育む食文化を訪ねて おいしい静岡(2)へ続く(近日公開)
文・写真/中 文子
(Web掲載:2026年3月13日)

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