白銀の谷川岳を露天風呂から一望
雪化粧した木立に囲まれた露天風呂(男湯)。雪や雨を防ぐ菅笠も用意してある
喧騒を離れて雪景色に癒やされて
群馬県の最北端、みなかみ町にある水上温泉郷。関東屈指の豪雪地帯ながら、東京都心から関越道水上ICまで車で約1時間40分、新幹線なら東京駅から上毛高原駅まで最速1時間6分とアクセスはいい。ふと都会の喧騒を離れて雪見の露天風呂につかりたくなった時には、絶好のロケーションだ。
中でも、白一色に染まった雄大な谷川岳を露天風呂や客室から間近に眺められ、多くのリピーターを生んでいるのが、谷川岳の南麓に湧く谷川温泉の水上山荘だ。
谷川の畔の傾斜地に立つ6階建ての宿は、4階が玄関。簡素なフロントを通り、まず案内されるのがロビーラウンジ。映画館のスクリーンのような窓から白銀に輝く谷川岳が目に飛び込んでくる。
「熱いおしぼりと黒豆茶をお出しして、ここでゆっくりと記帳を済ませてもらいます」と社長の松本知也さん。
美人の湯をかけ流し
男女別の露天風呂は3階の大浴場に隣接し、眼下には谷川の清流、対岸には雪帽子をかぶった杉林が見える。夜はライトアップされ幽玄な世界が浮かび上がる。岩風呂に身を沈めると、さえぎるものなく真正面に谷川岳がそびえ立つ。
湯は40度ほど。真冬は最初寒く感じるが、1時間でもつかっていられて、次第に体の芯まで温まってくる。岩盤にはイス状の窪みが掘られており、「長湯をじっくり楽しんでほしい」という宿主のこだわりが伝わってくる。
泉質は弱アルカリ性単純温泉。無色透明で、肌がつるつるとなることから「美人の湯」として好評だ。
心地良い湯加減の裏話を聞かせてもらった。宿には二つの自家源泉と一つの共同源泉があり、温度が30度、44度、54度と異なる。それらをブレンドしてかけ流すことで、加水・加温をせずに湯温を調節できる。「バルブを1㍉刻みで開け閉めして源泉の湯量を増減します。気温が変動しやすい季節の代わり目は、特に気を使いますね」。湯守役は松本社長が自ら務める。
露天付き客室は9室も
客室は全18室で、うち9室に露天風呂が付いている。いずれも湯船につかったまま、名画のような谷川岳の景観を楽しめる。
夕食は1品ごと出す会席料理で、冬のメーンは上州牛を使ったすき焼き。若い料理長が創作料理に取り組んでいる。
宿泊客の満足度は、玄関横に設けられた「色紙部屋」に入れば一目瞭然。有名人、一般人の別なく、宿への感謝が記された色紙が五十音別に並ぶ。こうした分け隔てない気配りも、数多くのリピーターを生む理由だ。
文/天野久樹
(出典 「旅行読売」2019年2月号)
(ウェブ掲載 2019年11月7日)