宍喰駅【阿佐海岸鉄道】
徳島・高知の県境を走る、たった3駅のローカル線
JR牟岐(むぎ)線の終点、海部(かいふ)駅から走る阿佐(あさ)海岸鉄道はたった3駅しかない。建設工事が中断された旧国鉄阿佐線の一部区間を開業させた鉄道だ。その中間、徳島県最南端に位置する宍喰(ししくい)駅に降り立った。
改札脇の水槽では、駅長を務める「伊勢ぇび駅長」が出迎えてくれた。高架下の駅舎の半円形の窓が、水平線から昇る朝日を連想させる。駅前の休耕田ではレンゲソウが春風に揺れていた。
海まで歩く途中、不思議な紋様の「化石漣痕(かせきれんこん)」という岩があった。海底にあった堆積層が波で浸食されてできたもので、国の天然記念物でもある。付近の海は水床湾(みとこわん)と呼ばれ、大小の島々が浮かぶ爽やかな景色が広がる。
心地よい風が吹き渡るホームに戻る。日々奮闘する鉄道にエールを送り、南海の小さな駅をあとにした。
文・写真/越信行
阿佐海岸鉄道は1992年に開業。宍喰駅へは徳島駅から牟岐線普通列車で2時間の海部駅で阿佐海岸鉄道に乗り換え7分
(出典 「旅行読売」2016年5月号)
(ウェブ掲載 2019年11月15日)
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