たびよみ

旅の魅力を発信する
メディアサイト
menu

老舗温泉で親孝行の“おもてなし”

場所
> 湯河原町
老舗温泉で親孝行の“おもてなし”

青巒荘での楽しい夕食のひと時


高齢の両親と温泉旅へ

義理の両親が東京へ越して来た。80に届きそうな年齢を考えても、近くに居てもらうと安心だ。「これまでのお礼に、何かしてあげたい」という思いは日頃からあった。

考えていたのは温泉旅行。特に母は旅行が好きで、年に何度も友人らと出かけていた。それが近年、足腰の弱った父のこともあり控えていたのだ。父のことを思うと、鉄道で気軽に行けて静かに過ごせる場所がいい。釣り好きな父のためにも、新鮮な海の幸も食べさせてあげたい。500湯以上を訪ねた経験から、奥湯河原温泉が思い浮かんだ。


宿に着いてスタッフがお出迎え
宿に着いてスタッフがお出迎え

ミカン畑広がる河畔の名湯

東京駅から東海道線快速で1時間30分。湯河原駅からタクシーで7、8分ほど藤木川を遡った山間にある。冬が深まるにつれミカン畑が一面に彩りを添える風情ある湯処だ。

訪れた宿は、清流沿いに棟を寄せる青巒荘(せいらんそう)。1929年創業で、昭和の面影を残す木造の本館をはじめ、別館、新館の3棟54室からなる。館内にエレベーターはなく、足腰の弱い父にとって決して快適とはいえないが、以前に訪れた際、不便さを感じさせない宿のスタッフの気遣いに心打たれ、安心して連れて行けるという思いがあった。


客室でのんびり談笑
客室でのんびり談笑

特典満載!親孝行プラン

親孝行や3世代の旅を歓迎し、思い出作りのサポートに各種プランを用意している。予約した「親孝行の旅に!」プランは、60歳以上の人がいると特典の多い人気プラン。60歳以上の人に館内利用券1000円分がプレゼントされ、チェックアウトも1時間延長して11時でOKだ。

「玄関から近い本館客室や風呂に近い客室など、ご要望にもできる限りお応えします」と、執行役員の西川明宏さんが話す。新館客室は広くてうれしいが、2、3階にあって階段の移動がひと苦労。本館1階の客室「さつき」「葵」などなら、10段ほどの階段の上り下りで済む。

「それでもしんどい場合は、スタッフがお手伝いをさせていただきます。遠慮なく言ってください」と、フロントマネージャーの笠井秀浩さんが笑顔を見せる。


野趣に富む仙境野天風呂
野趣に富む仙境野天風呂

高齢者へ高座椅子や簡易ベッドも

54室のうち33室に内風呂が付いていて、加水なし加温なしの源泉かけ流し。客室で温泉を楽しめるのは高齢者にもありがたい。

「でも、やっぱり露天風呂で開放感を楽しみたいわね」という母の気持ちも分かる。青巒荘には男女別に露天風呂と大浴場、それに女性専用の中浴場がある。男性の「仙境野天風呂」は18時~21時と翌8時~930分は女性タイム。女性の露天風呂は同時刻に貸し切り利用(要予約)できる。

仙境野天風呂には竹林が広がり、落差38㍍の滝が風趣を添える。頭上一面にモミジが枝葉を広げる雰囲気がまたいい。毎分100㍑湧く自家源泉は、肌に優しい弱アルカリ性。源泉かけ流しだ。湯船は深めで、底に尻を付けるとあごの近くまで湯が満ちている。長湯を好まない父が、「もうちょっと、つかっていたいね」とつぶやく。しわいっぱいの満面の笑みが、心地良さを物語っている。


傘寿を祝う黄色いちゃんちゃんこ姿で夕食
傘寿を祝う黄色いちゃんちゃんこ姿で夕食

豪華でも食べきれない!

客室に戻ると、布団が一組敷かれていた。「湯上がりに少し横になって、夕食までお休みください」と笠井さん。旅慣れない高齢者を労わる、そんな気遣いがうれしい。

普段、早い時は20時には寝るという父にあわせ、夕食は1730分からとお願いしておいた。部屋出しの会席料理で、あぐらや正座がしんどい父のために高座椅子も用意してもらった。刺し身の盛り合わせ、カニ爪、アワビの踊り焼き、タイのしゃぶしゃぶ……。「食べきれないよ」と言いながらも、両親はうれしそう。仲居さんから「食べやすいように、アワビを切り分けますね」との配慮。アワビの身の軟らかさに母が驚き、「これなら歯でかじっても食べられたわね」と笑いを誘う。

一緒に楽しんだカラオケ、家庭菜園の収穫の様子、趣味の釣りやビーズ、定期健診など、話題はあちこちへ飛ぶものの、両親の話はいつまでも尽きない。


夕食の一例
夕食の一例

「本当に、ありがとう」

食後、床の用意で簡易ベッドをお願いしておいた。1台しかなく事前予約になるが、無料で貸してもらえる。ベッドに腰かける父は慣れない旅行に少々疲れ気味。それでも、いつも以上に崩れる笑顔を見せてくれた。

就寝前の温泉を楽しんで戻って来た母から、「いつも、本当にありがとね」と。本来は、こちらが感謝を伝えるべき親孝行の旅である。先手を打たれ、どのタイミングで思いを伝えようか、翌日のことを考えるとなかなか寝付けなかった。

文/松田秀雄 写真/齋藤雄輝


静かな山あいにたたずむ青巒荘
静かな山あいにたたずむ青巒荘

<施設データ>

青巒荘             

TEL0465-63-3111

https://www.seiransou.co.jp/

(出典 「旅行読売」20201月号)

(ウェブ掲載 2020110日)


Writer

松田秀雄 さん

全国を取材で巡ること約30年。得意なテーマは「温泉」で、北海道・稚内温泉から沖縄・西表島温泉まで500湯・2000軒以上は訪れている。特に泉質は硫黄泉が好きで、湯上りに体を拭かず自然乾燥させるのがモットー。帰宅後、体に付着した硫黄成分が湯船に染み出して白濁する様子を見るのが好き。最近は飲泉への興味が強く、「焼酎割に適した温泉は?」を掲げて最高の一杯を探し中。旅行読売出版社・編集部に所属。