福地温泉の孫九郎でかけ流しの湯と音楽にひたる(2)
”音泉浴”に癒やされる
湯上がりに沖本さんこだわりの一室「音泉リビング パラゴン」でくつろいだ。アメリカJLB社が1000台だけ作った希少なスピーカーであるパラゴンが中央に鎮座し、真空管アンプに繋がれている。学生時代にアルバイトをしていた吉祥寺のジャズ喫茶にあったのを覚えていて、後年、探し出したそう。
ソファに座って目を閉じると、コンセプトの「温泉浴と音泉浴」の通り、ジャズミュージシャンたち、あるいはオーケストラの楽団がすぐ前にいるかのような、音の波にひたるような音質に圧倒され、旋律の中に没入していく。その忘我の感が心地よかった。
地元の飛騨牛や五平餅を
夕食は地元の山菜を使った先付や前菜、飛騨マス・ナマズの刺し身、川魚の塩焼き、飛騨牛しゃぶしゃぶ、飛騨豚の角煮、エゴマみその五平餅、飛騨そばなどで、素朴だが滋味深いものばかり。
沖本さんが「大女将の時代からやってきたことですから」と食事中、各席を挨拶して回る姿は、おもてなしのお手本のようだ。「今後、日本人の旅行客は減っていき、雪を楽しみにやってくる外国人は増えていくはずです。秘湯ブームが去って久しい今、各旅館も武器を持たなければなりません」という言葉が印象深い。
改装時は天領館(新館)の客室も大幅に変更。31室あった客室を一部一間続きにつなげるなどして24室に減らし、足の悪い人や外国人向けに洋室を新設した。風呂は一晩中入れる。気が向いた時に入り、その洋室でくつろいでいるうちに、山深い湯の里の夜は更けていった。
文/福崎圭介