ローカル鉄道への旅の道しるべに
出田貴康・第三セクター鉄道等協議会会長(当時)、「鉄印帳」を語る
全国40の鉄道会社による「鉄印」事業がスタートするのを前に、各社が加盟する第三セクター鉄道等協議会(三セク協)の出田貴康会長(肩書は当時)(肥 薩おれんじ鉄道社長)に、新事業にかける思いについて語ってもらった。
第三セクター鉄道は、旧国鉄やJRから経営が切り離されたローカル線を運営するため、沿線の自治体が会社を作って経営しています。三セク協は、全国各地のこうした鉄道会社40社で構成しており、健全な経営や列車の安全運行確保に必要な情報の共有、国への要望活動などを行っています。
ひとくちに第三セクター鉄道といっても、各社の状況はさまざまですが、ほぼ共通している課題は乗降客の減少です。原因は言うまでもなく、少子化、人口減少です。もちろん地域の方々の利用を増やすための努力は大事ですが、人口減少を止めることは難しい。だから、乗降客確保のための対策としても観光という視点が特に重要になってきます。そこで各社とも、多くの観光客に来ていただくため、沿線の魅力を訴え、それぞれの鉄道の魅力を楽しんでもらえるよう努力を積み重ねています。
「御朱印帳」の鉄道版 全加盟社初の共同企画
一昨年から、三セク協内部では何か共同で各社の取り組みを相互に支え合うことができないか、という話が出てきました。そして、昨年夏、会員企業から鉄道版「御朱印帳」をやってみたらどうか、という提案があったのです。それが「鉄印帳」につながりました。
寺社で御朱印を記帳していただくための「御朱印帳」が、新たに寺社巡りを趣味とする人々を生み、御朱印ブームを作り出しました。これと同様に、「鉄印帳」がこれまで知らなかったローカル鉄道への旅の道しるべとなり、ローカル鉄道の沿線の魅力に触れることで、鉄道旅行を楽しむ人が増えていくことにつながればと願っています。
鉄印事業はこれからスタートするわけですが、どのようなものなのかを具体的に紹介させてもらいます。
私が社長をしている肥薩おれんじ鉄道は、九州の東海岸を走っています。車窓から見える東シナ海に沈む夕日は絶景で、弊社の鉄印もその夕日をあしらった「朱印」と、「おれんじ鉄道」という文字の組合せにしました。「おれんじ鉄道」は、ひらがなか漢字を崩したように見えますが、実は英語表記の「ORANGERAILWAY」のアルファベットを組み合わせて、「おれんじ鉄道」と読めるように書いたものなんです。分かりますか?(笑)
「鉄印帳」は、三セク協加盟40社初の共同企画です。「鉄印帳」が全国各地の鉄道、そしてその沿線地域の素晴らしい自然や暮らしを発見し、楽しんでいただく旅のお供となれば幸いです。新型コロナウイルスも終息したわけではありませんので、安心してご利用いただけるよう感染防止にも努めてまいります。
(旅行読売2020年8月号)