白馬岳 蓮華温泉ロッジ
裏山を15分登った「仙気の湯」。降雪の早い年には雪化粧と紅葉の組み合わせが実現する(写真提供/蓮華温泉ロッジ)
一度はつかりたい絶景露天風呂
秘湯ファンが絶景の露天風呂を挙げると、必ず選ばれるのが「白馬岳 蓮華(れんげ)温泉ロッジ」だ。標高1475㍍。北アルプスの新潟側玄関口にあるこの温泉山小屋は、毎年3月下旬から10月20日まで営業しており、特に10月はこの時期ならではの紅葉絶景が楽しめる。
宿へは北陸新幹線糸魚川(いといがわ)駅からバスに乗り換えて1時間35分の道のり。途中、鏡のような水面に紅葉を写す「白池」を通るので立ち寄ってみてもいい。終点の蓮華温泉バス停から少し坂を登るとようやく到着だ。
「9月末になると雪倉岳や朝日岳の山頂で紅葉が始まり、この辺りは10月10日前後にピークを迎えます。ナナカマドの赤、カエデのオレンジや黄、ブナやダケカンバの黄が混ざった錦の紅葉が360度、見渡す限り広がります」
温厚な人柄がにじみ出た笑顔を浮かべながら、4代目社長の田原伸男さんは紅葉期の様子を話してくれた。施設は2棟からなり、客室は30室。山小屋らしく相部屋が基本で、客室の貸し切り(1室4000円)もできる。ただし、今年は新型コロナウイルス対策として貸し切り料を1室2000円に値下げ。混雑時のひとり泊では広い部屋での相部屋もあるが、個室宿泊を基本にしている。宿泊は予約制なので注意しよう。
大自然の中で裸になる
さて、念願の野天風呂だ。温泉旅館ならば浴衣に着替え鼻歌交じりに行けるが、ここは違う。しっかり靴を履いて四つの野天風呂を周回する山道を上り下りしないといけない。
「特に順番はありませんが、四つの風呂はすべて泉質が異なり、三つは酸性、一つは弱アルカリ性です。昔からの湯治では、肌に優しい弱アルカリ性の黄金湯が最後になるよう左回りで巡ったようです」
田原さんの言葉に従い左回りに進む。上り口から樹林を10分ほど登ると「三国一の湯」がある。ひとりサイズの風呂で脱衣場はおろか脱衣籠もない。しかも山道のすぐ横にあり、人が通れば丸見えだ。とはいえ、恥ずかしがっても仕方がない。エイッと服を脱ぎ、体を沈めると予想外のぬる湯で、透明の湯に白い湯の花が舞い、硫黄の香りが鼻をくすぐった。
樹林を抜け、白煙が上る荒涼とした源泉が見えると「仙気(せんき)の湯」は近い。仙人気分が味わえるのが名前の由来で、さえぎるものが何もなく、晴天時には雪倉岳、朝日岳、五輪山などの北アルプスが一望できる。秋は温泉につかりながら紅葉狩りができ、仙人気分はさらに増す。温泉はやや熱く、なめると鉄の味がした。
ここから5分ほど登った「薬師湯」はこぢんまりした岩風呂。「只今女性入浴中」の札を下げたロープで山道を塞げば、女性専用になる。温泉は薄緑色で、レモンのような酸っぱい味がする。これほど近くにありながら、まるで違う温泉が湧くことに、自然の不思議を感じた。最後に黄色の湯の花が舞う「黄金湯」につかって宿に戻ると、ほどなく夕食の時間だ。
メイン料理は自家製フキみそを載せて味わうトンカツ。フキみそのほろ苦さが豚肉の甘さを引き立てて、糸魚川産コシヒカリのご飯が進むこと。2杯、3杯とおかわりしてしまった。食器の返却、布団敷きなど、山小屋ルールを楽しみつつ21時に消灯。ゴロンと寝転がり窓から星空を見上げていたら、いつしか寝入っていた。
白馬大池まで日帰りハイキング
山小屋の朝は早く、6時に朝食が始まる。せっかくなので白馬大池まで日帰りハイキングに出かけてみた。往路は約3時間30分のすべて登り。中間点となる「天狗の庭」からは雪倉岳や朝日岳が間近に見え、その迫力に圧倒された。
白馬大池は北アルプスでは2番目に大きな火山湖。9月下旬から10月上旬には周囲の山が赤、黄、緑に彩られる。ここから白馬乗鞍岳を経て、草紅葉が美しい長野県小谷村の栂池(つがいけ)自然園に至るルート(大糸線南小谷駅へ抜ける)もあるが、この日は往路を戻った。全身汗まみれの私を見て、山小屋の田原さんは「山の疲れは山の温泉で癒やしてください」とニッコリ。なるほど、男女別の大浴場につかると疲れがじんわりと抜けていくのが分かった。
文・写真/内田晃
住所:糸魚川市大所991
交通:北陸新幹線糸魚川駅からバス1時間35分、蓮華温泉下車すぐ/北陸道糸魚川ICから国道148号、県道505号経由42㌔
TEL:090-2524-7237(6時~21時)
(出典 「旅行読売」2020年10月号)
(ウェブ掲載 2020年10月4日)
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