何度も乗りたくなる魅力ぎっしり リゾートしらかみ(2)
車内で駅弁とつまみ、地酒を堪能
冬の日本海と港町の車窓風景
列車は能代駅を過ぎると海に出て、約80㌔にわたって海岸線を走る。今の時期は冬の日本海らしい低い雲と鈍色(にびいろ)の空、黒い海が広がり、荒々しく打ち寄せる波が岸を白く縁取る。次々と車窓を流れる船を舫(もや)った名も知らぬ港町はどこか哀愁がある。
白神山地の玄関口、あきた白神駅を過ぎると車内アナウンスが流れ、やがて岩館―大間越(おおまごし)駅間の奇岩が続く岩礁地帯、八森岩館海岸で徐行運転し、乗客の多くがカメラを向けた。絶景での徐行運転は深浦―広戸駅間や千畳敷(せんじょうじき)駅付近でも行われるが(列車により異なる)、その時間が運行ダイヤに組み込まれているのがすごい。
「四季それぞれに乗ってみたいと思わせる海と山の風景が五能線の魅力です」とJR東日本秋田支社の広報担当者は言う。
「これだけ海岸風景が続く路線は初めて。夏に青春18きっぷで乗った和歌山の紀勢線に比べ、五能線はトンネルが少ないし短い。酒が進みますね」とカップを傾けるのは長野県松川村から来た鉄道ファン。仕事の出張で秋田に来て休日に東北を回っている途中という。
滋賀県草津市から来た夫婦は「一度乗りたかった列車。青森から八戸に出て太平洋側を下ります。フルムーン夫婦グリーンパスを使った4泊5日の旅です」と話す。
車内に響きわたる津軽三味線
人気の青池がある十二湖(じゅうにこ)駅には、この時期は雪が深いため降りず、3月末までストーブ列車が運行している五所川原(ごしょがわら)駅を目指した。内陸に入る鯵ケ沢(あじがさわ)―五所川原駅間では津軽三味線の生演奏に聞き惚れた。岩木山を見ながら津軽平野の雪原の中を疾走する列車内に、三味線の軽快な音色が響き渡る。
やがて正午過ぎ、五所川原駅に着いた。列車はこの後、川部駅から奥羽線に入り、終点の青森駅には13時29分に到着する。
リゾートしらかみの車内イベントは津軽弁の語り部、無形民俗文化財・金多豆蔵人形芝居もある(いずれも号、曜日限定)。景勝地の千畳敷駅で15分間の停車中、ミニ散策ができる号もある。何度乗っても楽しめる工夫があるのだ。例えば、次は午後に乗り、日本海の夕景を見てみたい。そんな風に、乗り終えてすぐ、また乗りたい気持ちになっている自分が不思議だった。
文・写真/福崎圭介