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鉄道で “聖地巡礼” ―あの名作の舞台へ─
「時をかける少女」

場所
> 尾道市、竹原市
鉄道で “聖地巡礼” ―あの名作の舞台へ─<br>「時をかける少女」

尾道の街から遠く瀬戸内の島々まで望む千光寺公園からの眺め

 

映画と「自分らしさ」をつなぐ街 尾道・竹原【広島県】

「もう時間がないわ。どうして時間は過ぎていくの?」
「過ぎていくんじゃない。時間はやってくるものなんだ」

時空を越えて出会ったヒロインの和子と、未来人・深町。甘く切ないクライマックスシーンも、少しだけ哲学的な匂いがする。そういえば、初めてデジャビュ(既視感)という言葉を知ったのも「時かけ」だった。独特の世界観に魅了された若者が押し寄せ、聖地巡礼の先がけとなった映画の舞台・尾道を巡った。

時空を越えるタイム・リープでヒロインの和子が降り立った艮神社

新駅舎を建設中の尾道駅で山陽線を降り、まずはロープウェイで街の全景を一望できる千光寺(せんこうじ)公園に上る。山頂まで3分、眼下には尾道水道沿いの箱庭のような街並みが広がった。山麓に緑の樹々が茂る小さな杜が見える。和子が過去に移動し、幼少期の自分の姿を目にする艮(うしとら)神社だ。境内に聳(そびえ)立つ大楠(おおくす)は樹齢900年。高さ40㍍、幹回り7.3㍍の偉容は、人知を超える何かが宿る雰囲気たっぷり。「時をかける」気分に浸れる。

歩き疲れたら、石畳の坂が続く千光寺新道のアンテナ・コーヒーハウスで休もう。オーナーの山口真悟さんは大林宣彦監督の映画に惚れ込み、何度も訪れた尾道に4年前、移住を決めた。「物語性だけでなく、自主製作に似た手づくり感にも惹かれました。文学作品を読むように、つくり手の想いに考えを巡らせ、自らを投影させていく。大林作品とこの街は、私らしさを思い出すスイッチです」

大林監督なじみの喫茶店TOMは、尾道三部作のファンが全国から集う場だったが、今はもうない。「旅人」から「尾道の人」になった山口さんは、「この店を尾道の映画や街、文化の魅力を発信する基地に」と笑顔で語る。「時かけ」を知る人も知らない人も新発見があるはずだ。

 

尾道は「猫の街」。小道のあちこちでくつろぐ猫に出会える

 

カフェに別れを告げ、山間部と海岸部を結ぶ長江通りを散策した。和子が通う中学校のシーンで登場する長江小学校や校庭の階段は今も残るが、撮影時のたたずまいが消えたロケ地も多い。密かに想いを寄せ合う和子と深町が歩いた竹藪の小道、洋風のとんがり屋根が印象的な和子の自宅……その風景は映画の中に永遠の記憶として刻まれている。

ちなみに、ほかの三部作のロケ地、「転校生」の御袖(みそで)天満宮の石階段や「さびしんぼう」の福本渡船場なども近い。どちらも映画の空気感を思い出させる情景が待っている。

「転校生」で主人公が転げ落ち男女が入れ替わる御袖天満宮
「さびしんぼう」で尾道水道を渡るシーンが有名な福本渡船場

通学路になった安芸の小京都

尾道駅に戻り、もう一つの舞台である竹原を目指し山陽線から呉線に乗り換える。下り電車の到着を告げる曲は「ふるさと」。駅ごとの入線メロディーも旅の楽しみ。乗り継ぎの間、三原駅で名物駅弁「たこめし」に舌鼓を打つ。忠海(ただのうみ)駅を過ぎ、瀬戸内海と島々の青と緑が鮮やかな車窓の絶景に釘づけだ。

尾道から1時間で竹原に到着。作中、通学路として何度も登場する町並み保存地区は、本瓦葺きに格子、灰色漆喰いの重厚な木造家屋が軒を連ねる。長い石段の西方寺や、堀川吾朗の自宅だった醤油蔵も残っている。蔵の看板は映画用に製作したのを譲り受け、現在は二代目。突き当たりの胡(えびす)堂は、和子と深町、吾朗の微妙な関係と揺れる心を描き、ある事実を紐解とく重要なシーンで登場した。

国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている「町並み保存地区」

人気アニメ「たまゆら」の聖地としても人気の竹原。胡堂を守る地元女性は「『時かけ』も『たまゆら』も通りを埋め尽くす人出で大変。でも、にぎわいがある方が楽しいですよ」。暮らす人の気づかいと、訪れる人の心づかい。そのちょうどいいバランスが、ここにはある。

「時間はやってくるもの」という深町の言葉や、ロケ地探しについて「自分がこれからその中で生きようとする映画の気配、気分、心を求めて旅します」と語った大林監督の言葉を胸に、自分らしさに触れる旅に出てみてほしい。 


文・写真/清水章弘

 

(出典「旅行読売」2018年8月号)

(ウェブ掲載 2020年11月13日)

 

尾道駅をスタート
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徒歩15分+ロープウェイ3分
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千光寺公園
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ロープウェイ3分+徒歩すぐ
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艮神社
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徒歩5分~10分
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長江通り界隈
(長江小学校、御袖天満宮)
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徒歩15分~20分
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尾道駅
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電車50分~1時間10分
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竹原駅
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徒歩12分
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町並み保存地区
(西方寺、醤油蔵、胡堂)
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徒歩12分
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竹原駅へゴール

 

■千光寺山ロープウェイ(9時~17時15分/片道320円、往復500円)

TEL:0848-22-4900

■アンテナ・コーヒーハウス(11時~20時30分/木曜休)

TEL:0848-22-2080

 

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Writer

たびよみ編集部 さん