たびよみ

旅の魅力を発信する
メディアサイト
menu

歩く旅 鎌倉(神奈川・鎌倉市)

場所
> 鎌倉市
歩く旅 鎌倉(神奈川・鎌倉市)

鎌倉高校前の踏切。海と江ノ電の構図は、アニメ「スラムダンク」のオープニングに登場し、韓国や台湾でも放映された

映画作家や文士に愛され 路面電車が走る古都

徒歩時間▽約2時間40分(約8㌔)

高低差▽約55㍍

のどかな昼下がり、葉桜の影と北鎌倉の駅をカメラは捉え、続いて円覚寺(えんがくじ) の石段が映る。小津安二郎監督の映画「晩春」の冒頭シーンだ。駅舎は変われど、北鎌倉駅にひとり降り立った。数多くの物語の舞台になってきた古都・鎌倉。路面電車の江ノ島電鉄(江ノ電)に沿いつつ、街歩きにでた。

円覚寺は鎌倉時代後期の創建で、壮大な七堂伽藍(がらん)を構える。「晩春」のお茶会シーンでも使われている。小津安二郎の墓もここにある。受付で尋ねると、「ご遺族のご厚意でどなたでもお参りできます」と墓所を教えてくれた。「無」と刻まれた墓石の前で合掌。

鎌倉街道から史跡の亀ヶ谷(かめがやつ)坂へと右折する。急坂を下り、横須賀線沿いを通り、鎌倉市川喜多(かわきた)映画記念館を目指す。日本映画の発展に貢献した川喜多長政・かしこ夫妻の住居跡に建てられた施設で、訪問時(2021年6月)は「日本映画名優〈バイプレイヤーズ〉列伝」などを開催していた。季節の花や新緑が美しい庭の高台に立つ古民家は、哲学者・和辻哲郎の住居を移築したもの。ヴィム・ヴェンダース監督の「東京画」は、ここで笠智衆(りゅう・ちしゅう)のインタビューを撮った。古き良き日本映画の佇(たたずま)いが感じられる建物だ。

学芸員さんによると、金沢街道周辺も鈴木清順監督の映画「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎(かげろう)座」などのロケ地が多いという。「鎌倉が舞台なのは、プロデューサーの荒戸源次郎さんが鎌倉に住んでいたからだそうです」と学芸員さん。

多くの参拝者が訪れる鶴岡八幡宮。大石段脇の大銀杏(いちょう)は暴風で倒れ、現在は 子銀杏(写真左端)が成長した姿を見せている

小町通りに出て左折すると、すぐに鶴岡八幡宮がある。ひとり旅らしき若い女性の姿もチラホラ。鶴岡八幡宮は源頼義が祀(まつ)った由比(ゆい)若宮を頼朝が現在地に遷(うつ)し、一族の守護とした。大石段の下から見上げる荘厳な本宮は、代表的な景観だ。「晩春」で杉村春子が大銀杏(いちょう)の横で財布を拾い、大石段を駆け上がるシーンが印象的だった。

鎌倉文士たちも歩いた道⁉

来た道を戻り、横須賀線の線路を越え、今小路を歩く。鎌倉御用邸跡に立つ御成小学校の巨大な冠木(かぶき)門が目を引く。六地蔵交差点を右折して、絵になる日本家屋や瀟洒(しょうしゃ)な洋風建築などの住宅街の路地を歩く。少女小説を確立した吉屋信子の旧邸は記念館(本年度非公開)となっていて、腕木門に続く塀が趣深い。

この先に旧前田侯爵家の別邸を利用した鎌倉文学館もあり、鎌倉文士に思いを馳は せつつ、古都らしい風情を感じながら歩いた。

川端康成が終の棲家とした家は甘縄神明(あまなわしんめい)神社の近くにあり、小説「山の音」の題材になっている。映画「山の音」は、川端が最初に住んだ浄明(じょうみょう)寺 宅間ヶ谷周辺でロケをし、報国寺が登場する。

アジサイで有名な長谷寺入口の先を右折して、御 霊(ごりょう)神社を経て成就(じょうじ ゅ)院へと向かう。「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」に登場した成就院は、アジサイを南三陸町(宮城)へ移植したため、寺側斜面はハギが植えられている。石段を上がった山門前から振り返ると、家並みの向こうに由比ヶ浜が見え、思わぬ絶景に息をのむ。

赤いポストが 特徴的な極楽寺駅 はドラマの舞台と して使われてきた

駅前に赤いポストがある極楽寺駅は、是枝裕和(これえだ・ひろかず)監督の「海街diary」をはじめ、数多くの映画、
ドラマを彩った。特に日本テレビ系で1976年から放映された「俺たちの朝」が忘れられない。ロケ地巡りで多数の若者が訪れ、廃線寸前だった江ノ電を救ったと、語り草になったほどだ。

稲村ヶ崎駅から腰越駅までは江ノ電を利用した。途中、車窓から見た鎌倉高校前の踏切に、カメラを構える若者が群がっていた。これはアニメの影響のようだ。

腰越海岸とその先に見える江の島

腰越駅からすぐの腰越漁港もまた、「海街diary」で描かれた。この日、漁港で網を整備していた漁師さんは、「ここでも伊勢エビが捕れるだよ」と教えてくれた。

腰越漁港から江ノ島駅までは1㌔弱。島内を見て回るには時間が足りない。またの機会に譲るとしよう。来年のNHK大河ドラマは三谷幸喜脚本の「鎌倉殿の13人」。鎌倉幕府の内幕が描かれるというから、鎌倉ロケも行われるだろう。ドラマの聖地巡礼は、来年もまた増えそうだ。

■起点までの交通

東京駅から横須賀線50分の北鎌倉駅下車
問い合わせ:0467-23-3050(鎌倉市観光協会)

モデルコース

北鎌倉駅
 ↓ 2分(0.1㌔)
円覚寺
 ↓ 2㌔(40分)
鎌倉市川喜多映画記念館
 ↓ 0.3㌔(5分)
鶴岡八幡宮
 ↓ 2.5㌔(50分)
甘縄神明神社
 ↓ 1㌔(20分)
成就院
 ↓ 0.2㌔(5分)
極楽寺駅
 ↓ 0.9㌔(18分)
稲村ヶ崎駅(江ノ島電鉄)
 ↓ (江ノ島電鉄に乗車し、8分)
腰越駅(江ノ島電鉄)
 ↓ 0.1㌔(3分)
腰越漁港
 ↓ 0.8㌔(15分)
江ノ島駅(江ノ島電鉄)

(旅行読売2021年6月号掲載)

Writer

田辺英彦 さん

東京都大田区出身、埼玉県在住。旅行ガイドブック編集・執筆、出版業界誌執筆などを経てフリーランスに。東北・八幡平の温泉群と、低山ハイク、壊れかけたもの・廃れたものが好き。

Related stories

関連記事

Related tours

この記事を見た人はこんなツアーを見ています