紀伊半島で原風景を探訪
360度の展望が楽しめる生石高原。はるかに連なる紀伊山地の山並みも感動的
新スポットで小休止
和歌山の絶景といえば白浜や串本など南部の海辺が有名だ。北中部の見どころはあまり知られていないが、山間部にも見るべき絶景はあるはず。和歌山は県土の約8割が山地だし、山上からの絶景も堪能してみたい。そう考えて少々珍しいコースを熟考。路線バスさえ通わぬエリアを探訪できるのも、クルマ旅ならではの面白さだ。
2019年春に開通した和歌山南スマートICで阪和道を出る。一般道を走り始めると前方にのどかな山里の風景が広がった。和歌山市東部に位置する山東地区だ。昨年オープンした「道の駅 四季の郷公園」に立ち寄って、新しい施設をのぞく。
「和歌山市で初となる道の駅で、農産物直売所やレストラン、バーベキュー広場を備えています。オリジナル商品も50種以上あり、お土産にも好評ですよ」と駅長の平松泰行さん。石窯で焼き上げたパンも人気と聞いて、駅長おすすめ「ほぐし鶏のバジルサンド」をテラス席で味わうことに。バジルソースの爽やかさ、木漏れ日と風の心地良さを満喫する。
ススキの大草原に迎えられて
そこから少し走ると紀美野町。清流・貴志川の流れを遡ると山の緑が濃度を増してゆくようだ。途中、勾配のきつい山道を経て標高870㍍の生石高原に着いた。山頂には約13㌶に及ぶススキの大草原が広がり、幾重にも連なる山並みや紀淡海峡、眼下の町並みなど360度の大パノラマに圧倒される。紀伊半島らしい迫力ある絶景。一面のススキが穂を揺らす10月頃にぜひもう一度来てみたい。
余韻にひたりながら生石高原を越えて有田川町に入る。目的は有田川町のシンボル「あらぎ島」を見ること。日本の棚田百選や国の重要文化的景観にも選定されている扇型の美しい棚田だ。
クルマを止めて展望台から一望すると、有田川に囲まれて島のように浮かぶ棚田がくっきりと望めた。川の流れが生んだ階段状の地形を生かしたもので、特徴的な扇型は自然と人のコラボが生んだアートと言える。本日二つ目の絶景に見惚れてしまった。
山の温泉と郷土料理も体感
コース後半の楽しみは有田川町清水にある天然温泉だ。有田川を見下ろす高台にある日帰り入浴施設「しみず温泉健康館」に到着。こぢんまりした温泉だが、ログハウス風の浴室で景色を眺めてゆっくり過ごせるのがいい。
敷地内にある「しみず温泉あさぎり」は飲食や宿泊ができる滞在型農村交流施設だ。レストランでは特産の山椒やコンニャクなどを使った郷土料理が食べられる。ワサビの葉で酢飯とサバを巻いた「わさびの葉寿司」も名物で、ぴりっとした辛さが絶妙だ。
「地元で採れるワサビの葉を仕入れて、ここで塩漬けにして作っているんですよ」とスタッフの前田加代さんが話してくれた。帰路にどこかで食べようと、テイクアウトの分もお願いする。
昭和を感じる鉄道スポット
山間をたっぷり走ったので、満足して平野部に下る。全国から鉄道ファンが訪れる有田川鉄道公園も魅力的なポイントだ。2002年に廃線となったローカル線・有田鉄道を後世に伝えるために、旧金屋口駅構内に造られた公園で、往時のままの車両や駅舎がノスタルジック。昭和の下町を舞台にした映画『ALWAYS三丁目の夕日'64』のロケ地にも使われたとか。園内の施設・有田川町鉄道交流館では鉄道模型やジオラマなど、マニア垂涎の展示をしている。
旅の最後に夕日の名所へ
最後は和歌山市に戻り、風光明媚な海辺の町・和歌浦を経由して雑賀埼灯台を目指す。一帯は日本遺産に認定された景勝地で、雑賀埼灯台は夕日の名所でもある。灯台に上ると、青々とした紀伊水道と小さな島々が望めた。沖に見えるのは淡路島。絶景と潮風を味わいながら、のんびりと夕日を待つ。
文/北浦雅子 写真/清水いつ子
<問い合わせ>
道の駅 四季の郷公園 TEL:073-499-4370
しみず温泉健康館 TEL:0737-25-1126
しみず温泉あさぎり TEL:0737-25-1181
有田川鉄道公園 TEL:0737-52-8710
(出典「旅行読売」2021年9月号)
(ウェブ掲載2021年9月28日)