【オーストラリア ファームステイの旅】「WWOOF」でオーガニックファームに暮らすように旅する[後編]
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ウーファーを受け入れているロールバッハ夫妻
WWOOF(ウーフ)というユニークな旅の仕組みを利用して向かったのは、有機農業の先進国と言われる南半球のオーストラリア。豊かな自然に囲まれたオーガニックファームで、しばらくその土地の住人となり、暮らすように旅をした。
人生に豊かさと気付きをもたらす旅「ウーフ」
【オーストラリア ファームステイの旅】「WWOOF」でオーガニックファームに暮らすように旅する[前編]から続く
農地の柵の向こうでは羊たちがのんびり草を食(は)んでいる。敷地には小川が流れ、アヒルや鶏が自由に庭を闊歩(かっぽ)する。周囲にはレモンやマンダリンなど60種以上の果樹が、畑ではニンジンやブロッコリーなど多種多様な野菜が収穫の時を待つ。
今回ステイさせてもらったロールバッハ夫妻は、農園のほかに宿泊施設「サンシャインハウス」も営む。「ここにはたくさんの仕事があるから、私たちにはウーファーが必要なの」と、妻のカミエさん。
野菜やハーブの栽培管理に余念がない妻のカミエさん
夫のアントニオさんが家畜担当
WWOOF(以下ウーフ)とは、ホスト農家から「食事と寝る場所」を提供してもらう代わりに、「ウーファー」と呼ばれる旅人は、自分のできることを手伝う旅の仕組み。労働ではなく手伝いなので、対価は発生せず、両者は家族や友人のような関係に位置付けられる。オーストラリアでは、ウーファーが手伝いをするのは1日4〜6時間。サポートは収穫や植え付けのような農作業、小屋を建てるような大工仕事、子どもの遊び相手など、農家の生活全般に及ぶ。
農家の多くは有機農業の実践者なので、オーガニックやオフグリッド(自給自足)の暮らし方など、通常の旅では得られない学びもある。訪れたときは、ドイツ人女性ウーファーがガゼボ(あずま屋)のペンキ塗りを手伝っていた。「おかげで夜は趣味のダンスができる」とロールバッハ夫妻は笑った。
2人の共通の趣味はダンス。今年は大会に出場するため、仕事の合間をみて練習に励む
ここでは、ウーファーに母屋のバス・トイレ付きの個室が与えられる。ホテル顔負けのセンスで整えられ、Wi-Fiもつながる。夕食は、三つ星レストランで働いたこともあるアントニオさんの手料理が並んだ。羊肉のソーセージや野菜、果物、アップルビネガーやジャムまで、すべてここで採れたもので作られている。なんと贅沢(ぜいたく)で豊かな晩餐(ばんさん)だろう。赤ワインを勧められ、女性ウーファーとも話が弾んだ。
カミエさんは植物に興味があり、自分で株分けした鉢植えが家を美しく彩る
朝食にはアントニオさんが手作りしたソーセージなどが並ぶ
翌朝からは本格的なウーファー体験。朝靄に包まれた風景は幻想的だ。露を宿した草が朝日にきらめき、羊を追うアントニオさんの姿が遠くに見える。まるでおとぎ話の世界に迷い込んだよう。
ロールバッハ夫妻はメルボルンから列車で約2時間のモーという町で複合型農業に取り組んでいる。羊は10頭からスタートし、3年間で70頭まで繁殖させた
ステイ先にもよるが、ここでは起きる時間は決まっておらず、手伝いは朝なんとなく始まり、だいたい15時以降は自由時間になるそうだ。礼儀と常識をわきまえ、特に指示がないときは、こちらで何をやったらよろこんでもらえるか自分で考える必要がある。汚れてもいいような服を持参することは必須で、虫や動物が苦手な人はウーファーには向かないだろう。
休日には月1回開催されるファーマーズマーケットに連れていってもらった。地元の人たちが作物を売買し、交流するぬくもりに満ちたコミュニティーだ。有機栽培の野菜やパン、コーヒー、植物由来のコスメなどオーガニック大国らしい品が並ぶ。バンウロン・マリーン国立公園にも足を延ばした。
地元のファーマーズマーケットには夫妻も時折ひよこなどを出品
短い期間でも、暮らしを共にすると深いつながりが生まれる。ホスト夫妻とは帰国してからもクリスマスカードが届くなど交流が続く。
現地のありのままの暮らしに触れ、新たな友人までできた旅。いきなり海外へ行くのが不安なら、北海道から沖縄まで326か所の農家が登録する日本でのウーファーを体験する手もある。いくつもの国で暮らしてみたい。多様な価値観に触れたい。そんな願いが叶(かな)うのがウーフの旅だ。
文/柿野明子 写真/松尾 純
ビクトリア州のサウスギプスランドに位置するバンウロン・マリーン国立公園まで夫妻の農園から車で1時間。道中は絶景の連続だ
📝WWOOFとは?
World Wide Opportunities on Organic Farms(世界に広がる有機農場での機会)の略。1971年にイギリスで始まり、オーストラリア、ニュージーランドで発展。現在は世界60か国以上に広まり、各国が独自に運営している。ウーフジャパンのウーファー登録料は初年度5500円(入会日より現在は1年半、継続割引あり)。日本国内では326か所の農家がホストに登録している。WWOOFジャパン事務局を参照。
【旅のインフォメーション】
交通:羽田からメルボルンまで直行便で約10〜11時間、メルボルンからモーまで鉄道で約2時間
時差:日本より1時間早い(サマータイムは2時間)
ビザ:観光目的で3か月までの滞在はETA(電子渡航許可)、それ以上の滞在にはビザが必要
通貨:1オーストラリアドル(A$)=96.8円(2025年2月13日現在)
気候:メルボルンの平均気温は夏季14~25.3度、冬季6.5~14.2度
参考:オーストラリア政府観光局
(出典:「旅行読売」2025年5月号)
(Web掲載:2025年7月19日)