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飛騨古川の町家街を歩くひとり旅

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  • > 岐阜県
> 飛騨市
飛騨古川の町家街を歩くひとり旅

白壁土蔵と瀬戸川の風景は、飛騨古川を代表する美観。春から秋は鯉が泳ぐ

白壁土蔵の古い町並みと薬草料理に癒やされる

飛騨古川の町を歩くのは3度目のこと、やはり良い町だと思う。飛騨の山並み、宮川と荒城(あらき)川に挟まれたそう広くない平地に、増島(ますしま)時代の碁盤目状の町割と壱之町(いちのまち)、弐之町(にのまち)、殿町(とのまち)などの地名、明治時代からの町家街が残っていて、二つの川を結ぶ用水路の瀬戸川が、町なかを静かに流れている。その不思議な魅力は言葉では捉えがたい。何度歩いても見飽きない理由は、歩いた者でしかわからない風光のようなものかもしれない。町を流れる清純な水であり、古い家並みの先で色を変える山肌や空であり、柔らかな飛騨言葉を話す人々のもてなしの心であり。

飛騨古川を旅先に選んだもう一つの理由は、近年この町が薬草で盛り上がっていると聞いたから。コロナ禍で免疫力アップというテーマが注目されている時期だった。官民一体で進む薬草プロジェクトは薬草体験施設「ひだ森のめぐみ」に結実した。薬草茶づくりなど各種体験メニューを提供し、観光拠点にもなっている。

「薬草はミネラルの宝庫。土のミネラルを吸った野草の根や葉をもらい、不調の原因となるミネラル不足を補います」とスタッフが教えてくれた。ミネラルとは、ナトリウムやカリウム、鉄、亜鉛などの元素のこと。それを聞いて「飲泉」を思い出した。温泉を飲む行為は、大地のエネルギー(ミネラル)を取り入れ、体を温めて体調をととのえようとする点で薬草茶に似ている。

聞きなじみのあるドクダミやヨモギのほかは、血流を良くするというメナモミ、二日酔いに良いという葛の花、ほかの薬草の力を高めるというスギナ、リラックス効果があるというクロモジなど、初めて聞く植物も多い。いくつかブレンドして薬草茶を作ってみたら、予想よりはるかに飲みやすい。複雑で爽やかな香りが鼻に抜けた。

「ひだ森のめぐみ」で販売する薬草飴(あめ)のように、町なかの複数の飲食店や販売店、酒蔵では薬草料理・商品を出しており、「薬草まちめぐりマップ」(観光案内所などで配布)を持って巡るのもいい。

薬草体験施設
薬草体験施設「ひだ森のめぐみ」は、薬草茶、薬草七味づくりなど各種体験メニューを用意
蕪水亭OHAKO
薬草を使ったランチメニューが楽しめる白壁土蔵街そばのカフェ「蕪水亭OHAKO」。メナモミハンバーグがメインのランチプレート(薬草スープ付き)、メナモミのシフォンケーキ・自家焙煎コーヒーとのセット
福全寺そば
地元産そば粉を使う手打ちそばの「福禅寺そば店」。薬草の一つで口当たり爽やかなヨモギを混ぜた、ヨモギとろろぶっかけそば。 飛騨米や赤カブなど地元食材を巻き、飛米(ひめ)牛を載せた Hida Roll(ヒダロール)は新メニュー
壱之町珈琲店の外観
「壱之町珈琲店」は連載「旅する喫茶店」でも過去紹介した町家造りの素敵な喫茶店
壱之町珈琲店
「壱之町珈琲店」はケヤキ板のテーブル席、中庭に面した座敷席でくつろげる

憧れの老舗宿・蕪水亭で味わう和の妙味

明治初期創業、作家の池波正太郎や歌人の若山牧水が投宿した歴史のある料理旅館の蕪水亭(ぶすいてい)には、前々から一度泊まってみたかった。4代目主人の北平嗣二(つぐじ)さんは、薬草プロジェクトの仕掛け人のひとりで、本格的な薬草料理を苦心開発した本人でもある。

北平さんによれば、発端は2013年、薬学博士の故・村上光太郎教授との出会い。長年薬草を研究していた村上教授は飛騨を訪れ、245種の薬草が自生していることに着目し、これを観光と結び付けて普及することを勧めた。その理念の下で飛騨市薬草ビレッジ構想が立ち上がり、商品開発や観光事業が具体化していく。和食の料理人でもある北平さんは薬草料理の開発を託され、試行錯誤したという。

「和食は本来、食材の香りを残して、だしの味で食べさせる料理。薬草は香りが強すぎて難しい。そこで薬草だしを作り、味付けに使うことにしました」(北平さん)

見える薬草料理から見えない薬草料理への発想の転換だ。飛騨古川は昔から飲酒量が多く、塩分の濃い食事が多い土地柄、薬効が伝わるメナモミと葛の花などを、カツオ節とともに煮出して使う。

夕食の薬草会席のメナモミ豆腐は、見た目は緑色だが、味はゴマ豆腐そのもの。吸い物やお造りのエスプーマには薬草だしを使い、ほんのり青みのある香りが爽やか。飛騨牛石焼のたれはメナモミと桑の葉を入れてアレンジされ、かすかな苦味が滋味深い。繊細な和食に薬草が溶け込んでいる。気軽に楽しみたいという人には、薬草ランチ(2750円)もある。

瀬戸川と白壁土蔵の町並みの風景は記憶にあるまま変わらない。そこに、薬草という風土に根差した新しい魅力が加わった。

文/福﨑圭介 写真/宮川 透

蕪水亭の薬草料理
蕪水亭の薬草会席料理はすべての料理に薬草や薬草だしを使う。写真は正月料理で、日により内容が異なる
飛騨牛石焼
蕪水亭の弊誌限定プラン(期間限定、下記参照)の薬草会席料理に付く飛騨牛石焼。メナモミ、桑の葉入りのたれが付く
蕪水亭外観
荒城川の畔に立つ蕪水亭は、作家の池波正太郎が「この旅館の料理はうまい」と書いた明治初期創業の料理旅館
蕪水亭内観
古時計や古箪笥(だんす)が並ぶ蕪水亭のロビー

●モデルコース

飛騨古川駅

↓ 徒歩5分

ひだ森のめぐみ

↓ 徒歩3分

瀬戸川と白壁土蔵街

↓ 徒歩5分

飛騨古川まつり会館

↓ 徒歩7分

壱之町珈琲店

↓徒歩5分

飛騨古川駅

蒲酒造
水がきれいな古川には酒蔵が二つある。創業300余年の蒲(かば)酒造場 では「白真弓」「やんちゃ酒」の試飲や、春以降は見学も受付(要予約)
和ろうそく
三嶋和ろうそく店で、和ろうそくの作り方や使い方を教わった。2002年の NHK連続テレビ小説「さくら」のモデルになった店
まつり会館
4月開催の飛騨古川祭 はユネスコ無形文化遺産。飛騨古川まつり会館では、実物の屋台を展示し、映像や解説で雰囲気を感じられる

飛騨古川の泊まりたい宿

蕪水亭

河畔に立つ1日3組限定の料理旅館。明治初期1870年創業で、朝食に出る朴葉みそ発祥の宿。部屋はメゾネットタイプの「ことぶき」「はごろも」など全3部屋。4代目主人が作る会席料理は繊細で美しく、薬草料理プランもある。2022年6月末まで「薬草会席・飛騨牛石焼付き旅行読売ひとり旅プラン」を2万4000円で提供している(電話受付のみ、2人同料金)。

交通:高山線飛騨古川駅から徒歩8分

住所:岐阜県飛騨市古川町向町3-8-1

問い合わせ:0577・73・2531

ひとり泊の条件:空いていれば通年可

ひとり泊の客室:トイレ付き10畳和室+ベッドルームのメゾネット客室など

ひとり泊の食事:夕・朝食=個室

ひとり泊の料金:1泊朝食2万1462円〜、1泊2食2万5650円〜(※掲載時の料金。公式ホームページを要確認)

蕪水亭
限定プランの客室「ことぶき」。2階はベッドルー ム。部屋付き風呂のほか、貸切風呂がある

大村屋旅館

飛騨古川駅前に立つ、町家造りの宿。白壁土蔵街や飛騨古川まつり会館へも徒歩圏内。全7室の客室は6畳または8畳の和室で、トイレと浴室は共同。食事の提供はないが、周辺にひとりでも入りやすい居酒屋や食堂が複数ある。宿泊料金は通年1人につき4500円で、ひとり利用や休前日による割り増しもない。

交通:高山線飛騨古川駅から徒歩すぐ

住所:岐阜県飛騨市古川町金森町10-40

問い合わせ:0577-73-2787

ひとり泊の条件:通年可

ひとり泊の客室:トイレなし6畳和室か8畳和室

ひとり泊の食事:提供なし

ひとり泊の料金:1泊素泊まり4500円(※掲載時の料金。宿に要確認)

大村屋旅館
飛騨古川駅から徒歩すぐの立地

ホテル季里(きこり)

飛騨古川の中心部から車で15分ほどの里山にある飛騨古川桃源郷温泉の秘湯。自家源泉の泉質は単純温泉(低張性弱アルカリ性低温泉)。館内の露天風呂、大浴場のほか、宿泊者は無料で入れる宿直営の日帰り温泉施設「ぬく森の湯 すぱ〜ふる」でも楽しめる。夕食は基本プランでも飛騨牛が付くほか、希少部位が味わえるプランもある。

交通:高山線飛騨古川駅から送迎15分(要予約)

住所:岐阜県飛騨市古川町黒内1400-1

問い合わせ:0577-75-3311

ひとり泊の条件:ゴールデンウィーク、年末年始を除く通年可

ひとり泊の客室:トイレ付き23平方㍍ツイン

ひとり泊の食事:夕・朝食=レストラン

ひとり泊の料金:1泊朝食1万30円〜、1泊2食1万4600円〜(※掲載時の料金。公式ホームページを要確認)

ホテル季古里
飛騨牛料理が付く夕食の一例

問い合わせ:577-74-1192(飛騨市観光協会)

(出典「旅行読売」2022年3月号)

(WEB掲載 2022年3月6日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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