この人に聞きました~株式会社たくみの里 代表取締役 西坂文秀さん~【群馬・みなかみ町】
西坂さんが手掛けた藁アートは、群馬県内でも話題のスポットに
里山農業が変えるレジェンド第2章
群馬県の最北端、旅と酒を生涯の友とした歌人、若山牧水が愛したみなかみ町を訪れたのは、この地で新しい人生を歩み始めたレジェンドに会うためだった。
三国街道・須川宿の玄関口にある道の駅たくみの里、フルーツランド・モギトーレなどを経営する株式会社たくみの里社長、西坂文秀さん(62)。彼が放つ力強い言葉に圧倒されながら、ほのかな期待はいつしか確信にかわっていた。奇跡の物語、第2章が始まったのだ。
最初の舞台は愛媛県今治市だった。小規模の高齢農家が生産する少量の農作物を受け入れる所はなく、農協勤務の西坂さんは2000年、30坪の直売所を開いた。契約農家94人のスタートだったが、家庭菜園のような農地で栽培した野菜が初めて売れ、数千円の入金があったおばあちゃんから「この通帳は宝もの」と感謝されたことが、彼の原動力になったという。
瀬戸内の島々から毎朝集荷するシステムを構築し、7年後には日本最大の床面積を誇る大型店に。契約農家は1600人に増え、年間売り上げも30億円まで成長した。それにしても、信念を貫き奇跡を成し遂げた男が、なぜみなかみに。
「現場が好きだから」と彼は言う。6年前に異動を内示されたが、「ハンコ仕事は苦手」と農協を辞め、地域おこし協力隊として移住した。巨大な藁アートの展示や採れたて果実のスイーツ開発など様々なアイデアを形にしてきたが、3年前に思わぬことが起きた。資金難に陥った道の駅などの再建を託され、新会社の社長に就任したのだ。コロナ禍で守りに徹しながらも様々な改革で赤字体質を改善しつつ、攻めに転じる時が来たようだ。
耕作放棄地に山ぶどうを植え、ワイナリーを作る。温泉宿や学校給食で地元の有機野菜を使い、生ごみを堆肥に。目指すは、循環型コミュニティー。「みなかみブランドを育てたい」と言う。不屈のレジェンドは、どんな壁も乗り越えるだろう。のどかな里山で今、新たな物語が生まれようとしている。
世界が認めたエコパークで心和む里山体験を
日本百名山、谷川岳の麓のみなかみ町は、自然と人が共生するユネスコエコパークに登録されている。
山々に囲まれた須川平に広がるたくみの里は、自然の恵みを生かした里山テーマパークといわれている。火の見櫓や水車、古民家が残る宿場町。のどかな田園に木工、竹細工、和紙などの工房が点在し、日本の原風景のような景観を楽しみながら手作り体験することができる。
あぜ道にたたずむ野仏、巨大な藁アートを巡る散策コースも人気だ。鎌倉時代に創建された泰寧寺(たいねいじ)の楼門がアジサイに彩られ、蛍舞う季節が到来する。