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【歩く旅】未来へ守り継ぐ湖西のみち、琵琶湖が桜に染まり春をまとう<海津大崎>

場所
> 高島市マキノ町
【歩く旅】未来へ守り継ぐ湖西のみち、琵琶湖が桜に染まり春をまとう<海津大崎>

約4キロにわたり、約800本のソメイヨシノが連なる。船に乗って湖上から眺めれば、花の帯が水面に映り込み、壮大なパノラマが広がる。桜の見頃は4月上旬~中旬

司馬遼太郎が紀行文集『街道をゆく』の第一歩に選んだ湖西の地

湖岸を吹く風に、春の香りが感じられる。清らかな水面に向かって、桜の枝がしなやかに張り出している。海津大崎の湖畔に沿って続く道は、春になると桜が寄り添うように並ぶ。ここでは、湖と花、そして歩く人と道との距離が近い。

司馬遼太郎が紀行文集『街道をゆく』の第一歩に選んだのは、この湖西の地だった。新たな旅の始まりにふさわしい空気を感じながら、桜が満ちる道をたどってみた。

出発は湖西(こせい)線マキノ駅。駅前を抜けて歩き始めると、やがて視界が開け、琵琶湖が近づいてくる。海津大崎までは、平坦な道のりだ。海津の集落には「石積み」の景観が今も残る。かつて琵琶湖の波から家々を守るために築かれた石垣は、国の重要文化的景観に選定されている。歴史の重みを感じさせる町並みを通り過ぎ、岬へと向かうカーブを曲がる。その先に立派な桜の木々が立ち並んでいるのが目に入ってくる。

この桜並木は約90年前の道路開発の際に植樹され、今も地域の人々が大切に守り継いでいる。「美しいマキノ・桜守の会」会長の江端英嗣(えばたひでつぐ)さんは、樹齢60年を超える老齢の桜や若い桜を見守り、病気がないかを1本ずつ確認している。元教員で卒業記念に苗木を植える子どもたちに思いを重ね、「遠く離れても、自分が植えた桜を思い出してマキノに戻ってきてくれたら」。桜並木は未来へつなぐ架け橋にもなっているようだ。

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約1.2キロ続く石積みは、江戸時代から今に伝わる。海津の知恵と歴史の証しだ

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「美しいマキノ・桜守の会」第4代会長の江端英嗣さん

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琵琶湖屈指の水質を誇るマキノ周辺。山々からの清流が注ぐこの湖は希少なニゴロブナをはじめ豊かな命を育む

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海津大崎湖岸園地は散策路の要所にあり、琵琶湖と桜をカメラに収められる絶好の撮影スポット

湖岸を少し離れ、高台へと足を延ばせば、海津の墓地の中に静かに佇(たたず)む「清水(しょうず)の桜」に出合える。樹齢約300年のアズマヒガンザクラの大木は、滋賀県の自然記念物に指定されている。

4.清水の桜.jpg
清水の桜。水上勉の小説『桜守』でも賞賛されている

旅の締めくくりは、旧街道沿いの老舗「魚治(うおじ)本店」へ。海津はかつて日本海側の物資を京都へ運ぶ「塩の道」や「昆布の道」の要衝として栄えた港町だ。名物の鮒(ふな)寿しは、この地を通り抜ける貴重な塩を使い、湖の恵みを保存する知恵から生まれた。蔵に住み着いた菌の力で2年の歳月をかけて醸される味は、土地の記憶そのものである。

「私たちの味が、お客様の中での『鮒寿し』になります。だからこそ最初の出会いに真摯(しんし)に向き合いたい」。7代目当主の左嵜謙祐(さざきけんすけ)さんはそう語る。未来を信じて「今」を生きる人々の思いに触れ、桜の余韻を携えて、帰路に就いた。

8.魚治店主.jpg
7代目当主の左嵜謙祐さん

鮒寿し 魚治本店

1784年創業の鮒寿しの老舗。琵琶湖産のニゴロブナを用い、冬を2度越して発酵させる伝統の「本漬」をはじめ、初めての人にも親しみやすい「甘露漬」もそろう。店内には若鮎の木の芽煮や佃煮、一夜干し、お茶漬けなど湖の恵みを生かした品々が並ぶ。歴史ある建物とともに、近江・湖西の豊かな食文化を味わえる。
■9時~18時/火曜(祝日の場合は振替あり)、第1・第3水曜休/湖西線マキノ駅から徒歩20分/高島市マキノ町海津2304/TEL:0740-28-101

7.魚治本店外観.jpg

9.魚治鮒寿し1.jpg

文/仲底まゆみ


◉モデルコース
[徒歩距離◎6.5キロ]
[徒歩時間◎1時間30分]

湖西線マキノ駅 START
 ↓ 2キロ(27分)
🌸海津大崎の桜
 ↓ 350メートル(5分)
海津大崎湖岸園地
 ↓ 1.5キロ(20分)
🌸清水の桜
 ↓ 1.3キロ(18分) 
魚治本店
 ↓ 1.4キロ(230分)
マキノ駅 GOAL
※🌸 は桜を楽しむスポット

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2026年4月号)
(Web掲載:2026年3月20日)


Writer

仲底まゆみ さん

大阪生まれ。古いものと新しいものが混在するまちや、路地裏を歩くのが好き。「こころで聴き、足で書く」をモットーに取材を通して、地域の魅力を引き出すことが目標。共著 『建築技師という生き方 東畑謙三との対話』(創元社)

 

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