桃太郎誕生の謎をたずねる 岡山温泉旅
悪事を働く鬼を退治し、宝物を手に入れた桃太郎。 しかし、鬼は悪者なのか、宝物とは何なのか――。
古代吉備(岡山県とその周辺)の繁栄と屈服の歴史を背景とし、桃太郎伝説の原型になったとされる鬼退治伝説。吉備の多様な遺産は、今も訪れる人々を神秘的な物語へと誘ってくれる。
「ドンブラコッコ」と川を流れる桃から生まれた桃太郎。そのモデルと言われるのが、大和朝廷の四道将軍の一人、吉備津彦命(きびつひこのみこと)だ。
その吉備津彦命の御陵がある吉備の中山の西麓には、吉備津神社があり、民を苦しめる温羅(うら)を吉備津彦命が退治し、吉備を平定した逸話を伝承する。
国宝の本殿・拝殿に架かる扁額「平賊安民」が伝説を物語る。互いの弓矢を射落とすほどの激戦の末、吉備津彦命は温羅を討ち取り、首をはねる。その首を御竃殿(おかまでん)の釜の下に埋めても唸り声を上げ続ける温羅は吉備津彦命の夢に現れる。「妻の阿曽女(あぞめ)に御竃殿の釜炊きを任せよ。さすれば釜の音を鳴らし吉凶禍福を占おう」。これが不思議に釜が鳴動する「鳴釜神事」の由来だ。
御祈祷殿で家内安全を祈願し、廻廊を抜けて御竃殿へ。大鉄釜に乗るセイロに、巫女姿の阿曽女が玄米を振り入れる。釜が大きく豊かに鳴れば吉。鳴らない、聞こえない時は凶だ。一瞬の間を置き「ブゥオー」という音が数十秒鳴り響いた。神職も阿曽女も吉凶は告げないが、吉だと安堵した。
天井や壁が煤で真っ黒なのは、連綿と神事が続いてきた証しだ。「安民」をもたらした吉備津彦命に願いを託す恩頼の念が、この地に桃太郎伝説を生み出したとも言えるだろう。
東麓にある吉備津彦神社では大吉備津彦命を祀る一方、境内には温羅神社も。百済渡来の王子とも言われる温羅命を製鉄や稲作などの技術を伝えた恩人として祀る。節分には桃太郎と鬼が仲良く「福は内」と豆をまく。「鬼」とは異質な存在の総称。善悪の対立軸ではなく多様性を受け入れ、活かし合うことが「宝物」。そう桃太郎伝説が教えているようだ。
さて、謎解き旅の疲れは温泉で癒やそう。平安時代に藤原基房が「関白専用の隠し湯」にし、後に高僧・重源(ちょうげん)が人々に開放した湯迫(ゆば)温泉。「白雲閣」(1泊2食付き1万800円~/電話086・279・0545)がその歴史を受け継ぐ。
「苫田(とまだ)温泉いやしの宿・泉水」(1泊2食付き1万800円~/電話086・294・2311)は、ラドン含有量が多い療養泉。公共温泉「たけべ八幡温泉」(10時~21時、大人650円・足湯無料。電話086・722・2500)や、最上稲荷近くの「稲荷山健康センター」(10時~翌9時、平日・日帰りプラン(10時~24時)大人900円/電話086・287・3900)など、日帰り施設も充実している。
吉備津彦命も温羅も、仲良く一緒に湯に身を任せたら――。そんな光景を思い浮かべながら、日本一有名な昔話の真実と「めでたし、めでたし」の結末に、想像力を膨らませてみたい。
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岡山市プロモーション・MICE推進課
TEL 086-803-1333
(出典 「旅行読売」2019年7月号)
(ウェブ掲載 2019年10月1日)