全11室に露天風呂が付く雪見宿
日が暮れ始め明かりが灯る客室露天風呂
100回以上来ている常連も!
広さ約7畳の露天風呂。1人1畳として、一度に7人が足を伸ばしてつかれる。夫婦2人なら広すぎ、家族4人でもゆったり。ほかの客と一緒に入る共用露天風呂ではない。客室に付いている露天風呂の話である。
ここ静楓亭は、磐梯山の麓にある一軒宿。敷地4000坪を誇り、そんなぜいたくな露天風呂が全11室に付いている。
2021年に25周年を迎えると聞くが、20年ほど前に訪れた時と変わっていない。客室が並ぶ平屋造りで、館内はベージュを基調とした優しい雰囲気。小ぢんまりしたフロントロビーのほか付帯施設はない。華美で気持ちがたかぶるような非日常な印象はなく、「かしこまる必要はないですよ」といった空気が漂っている。
「お客様は喧騒を離れ、心のひもを緩めにお越しになります。“もう客室から出たくない”と、くつろいでいただければ何よりです」と女将の荒井加代子さん。
その思いが伝わってか、客の6割は常連。100回以上来ている客は5、6組。60回以上の客は数えきれないそうだ。客室に露天風呂も内湯も付いているし、夕食も朝食も部屋出し。移動しなくて済むため、足腰の弱い高齢な客にも喜ばれている。
全室にマッサージチェアを完備
客室はすべて同じ造りで、12畳+10畳の二間、それに13畳の板の間付き。10畳間は寝室で、チェックイン時にすでに寝床の用意がされている。
「11のうち7室はツインベッドを壁内に収納した造りです。事前に希望をうかがえれば、ベッドに代えて準備します」と女将。普段と同じように、ベッドのほうが休まるという客にもありがたい。
板の間13畳にはソファやマッサージチェアがある。水場の棚には絵柄の異なるカップやグラスが装飾品のように並び、コーヒー豆やコーヒーミルまで。温泉に入る前にちょっと一服、「豆でもひいてみようか」という気分になる。
泉温の異なる湯でのんびりと
板の間の奥に脱衣場があり、内湯を抜けた先に露天風呂が広がっていた。冒頭で触れた通り、とにかく広い。前回、大人げなくも露天風呂で泳いだことを思い出した。誰の視線もない、客室露天風呂だからできること。
広いだけではない。敷地内から毎分482㍑湧く自家源泉をかけ流す。加水なし、加温なし、循環ろ過なし。泉温51.1度と高いため、注ぐ量で調整している。
「本当は鉄分を含む茶色系の湯なんです。見た目の印象を考えて、湯船のタイルをブルー系にすることで湯が緑色っぽく見えるんです」と女将が教えてくれた。
以前は無かったが、湯船の中に仕切りができていた。客室側が泉温41.5度、庭園のある奥は40.5度。泳げなくなったのは残念だが、温泉を楽しむための何気ない気遣いがうれしい。
悪天候の日は「大人の日」
冬本番を迎えると、湯船の周りは雪一色。例年2月には積雪が2㍍を越える日もあるそうだ。
「日に輝く純白の雪景色もいいですし、闇夜にほわっと白む様子もきれいです。夜は、露天風呂の明かりを消して入ってください」と女将は勧める。
雪化粧した木々がライトに浮かび上がる雰囲気を楽しんでほしいから。明かりを消すことで一面真っ黒な露天風呂の湯に雪が映り込み、さらに幻想的。写真撮影だって楽しめる。
悪天候の時は、「今日は大人の日ですね」と客に運がいいことを伝えるという。「??」と思ったが、湯に雨が当たる音、風に舞う雪の音など、普段は耳を傾けることがない自然の声を楽しめるから。大人には風趣に富む時間として感じられるそうだ。
露天風呂で、ソファで、ベッドでと、時々に客室内で居心地のいい場所を探す。「自分にとって、ここは病院だから」とくつろぐ常連がいると女将が話していた。病気療養ではない。それだけ元気をもらえるということ。不思議と、すごくその気持ちが分かる。