【阿佐海岸鉄道】7月運行! 世界初の次世代車両
線路上の試運転で性能試験を繰り返すDMV。車両は青、赤、緑色の3両がある
線路と道路を走る
四国の鉄道路線図を見ると、徳島駅から南へ海沿いにJR牟岐線が延び、その先に第三セクターの阿佐海岸鉄道阿佐東線(通称・あさてつ)が続いている。鉄路は甲浦駅で途切れるが、その先をたどると太平洋に向かって室戸岬が突き出ている。
鉄道に興味があればピンとくるだろう。本来なら、鉄路はさらに南へ西へと延びるはずではなかったのか? と。そう、歴史をたどれば高知県の後免方面への延伸計画があったが、諸般の事情で頓挫した。「おかげで」と言っては語弊があるかもしれないが、今回の記事にふさわしい終着駅が見つかった。
加えてあさてつでは世界初、DMV(デュアル・モード・ビークル)という名の、線路と道路の両方を走れる車両の本格営業運行を目指し準備が進む。「線路がある所は線路の上を走り、その先はバスに姿を変えて道路を走る」とイメージすればよいだろうか。「その方法があったのか」と合点がいく、次世代の乗り物でもあるのだ。
運行開始は7月頃の予定だがひと足先に取材に訪れ、沿線の魅力も探ってみた。
地域の魅力も知ってほしい
DMVが線路の上を走るのは、牟岐線と接続する阿波海南駅とあさてつ終点の甲浦駅の間だ。両駅は「モードインターチェンジ」と呼ばれ、線路を走ってきたDMVはここで鉄車輪を車体の下部に収納し、ゴムタイヤで走るバスとして一般道へ降りてゆく。鉄道モードと道路モードの切り替え時間はわずか15秒ほど。線路から一般道へ続くスロープが、のどかな景色の中で異彩を放っていた。
車両はマイクロバスを改造したもので、定員は22人。従来の鉄道車両と比べると格段に小さく、「車体が小さい分、線路上ではスピード感が伝わってきます。ガタンゴトンという鉄道特有の音はそのままです」と、阿佐海岸鉄道専務の井原豊喜さん。一方、道路では小回りが利き、地域住民の足としての活躍も期待できる。
地域回遊を楽しんで
「DMV導入のきっかけは、まず第一に、過疎化、高齢化が進む地域の活性化に貢献できること。車両自体が観光資源となり、観光振興に役立つと期待しています」と井原さん。「今日も試運転中です」と教えられ現場で待っていると、ヘッドライトを灯した車両が姿を現し、居合わせた子どもたちが「DMVだ!」と声を上げ目を輝かせた。鉄音を響かせ颯爽と走り去る姿には、豪華な観光列車にも負けない新鮮な驚きがあった。導入後は多くの鉄道ファンや観光客に注目されることだろう。
しかし井原さんはその先を見据える。「車両だけが興味の対象では、人気は一過性のもので終わってしまう。鉄道からバスへ乗り換えることなく周辺地域を回遊できる。そしてそこには豊かな海と山に育まれた食文化や歴史があることを知って、リピーターになってほしい」と。そんな願いもあって、これまで車でのアクセスに限られていた海の駅東洋町、道の駅宍喰温泉などもバスルートに含まれる予定と知り訪ねた。
温泉やグルメも満喫
海の駅東洋町では、新鮮な魚介類や野菜が安く手に入るほか、買った魚の切り身をさばいてもらい、自分好みの刺し身定食に仕立てることもできる。目の前には波穏やかな湾が広がり、食後には砂浜で昼寝をしたくなるようなのどかな空気に包まれていた。
道の駅宍喰温泉に隣接のホテル リビエラ ししくいでは、太平洋を眺めながら日帰り入浴で汗を流し食事もとれる。南からの暖かい風が、春の訪れが近いことを知らせるがごとく静かに吹き抜けていった。
土・日曜、祝日には、1日1往復だが室戸岬へ向かう便も予定。太平洋の荒波が洗う岩礁が延々と続く景色を見ながら岬巡りが楽しめる。DMVの登場により姿を変える終着駅・甲浦。その門出が待ち遠しくなった。その折には、待望の鉄印販売も始まる。
文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝