江戸時代の観光案内記で京都歩き
東山のシンボル、八坂の塔を望む二年坂
京都のガイドブックが、すでに江戸時代に出版されていたことをご存じだろうか。そのなかで、日本で最初にモデルコースを収録したのが、福岡藩士で儒学者でもあった貝原益軒の『京城勝覧』(1706年)だ。益軒は藩の命により幾度となく京都遊学や訪問を繰り返した、いわば京都通だった。
『京城勝覧』は東海道の終点となる三条大橋を起点に、各所を日帰りでたどるコースを17日分に分けて紹介する観光案内記。サイズは現在のスマートフォン程度で、当時から携帯して持って歩くことが想定されていたのだ。なんとも卓越した編集力である。
案内記は1日目が東山、2日目は大文字、3日目は伏見といった具合に、洛中から放射状に紹介され、それぞれのコースが寺院めぐりや自然探索など、バラエティーに富んでいるのも特徴的だ。コースはもちろん益軒の経験に基づく主観で作られているものだが、現代でも十分通用するような京都らしい魅力を存分に引き出している。
1日目に東山を設定しているのは、昔も今も京都随一の人気エリアであるからだろう。建仁寺、清水寺、高台寺、八坂神社、知恩院など有名スポットが組み込まれ、冒頭を読むだけできっと旅人の心を鷲づかみにしたに違いない。
江戸時代、三条大橋周辺には数多くの旅籠が立ち並んでいたという。そこから京都観光に向かう人々の心のときめきはいかばかりか。それを想像するだけでも、京都の旅は楽しい。