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島原鉄道の黄色い列車で、海の見える駅へ

場所
> 島原市
島原鉄道の黄色い列車で、海の見える駅へ

ホームのすぐ横が海の大三東駅。願い事を書いたハンカチと車両の黄色が、海の青に映える

半島の海岸線に広がる有明海と雲仙岳の佳景

諫早(いさはや)駅から島原半島東部の島原港駅までの海岸線を、平仮名の「つ」の字を描くように走る島原鉄道線(島鉄)は、そのロケーションから一年を通じて海景と山景を眺める。この時期らしからぬ温暖な空気を感じながら、沿線の名水・名湯を楽しむべく、始発駅で鮮やかな黄色の列車に乗り込んだ。

2両編成の列車は、うなり声のようなエンジン音とともに東へ向かう。諫早の市街地を抜け、干拓の里駅辺りまで来ると左車窓に広大な農地が広がった。諫早湾に建設された潮受(しおうけ)堤防により誕生した干拓地だ。湾越しのなだらかな山並みが佐賀・長崎県境の多良(たら)連山で、しばらく車窓の友となる。

やがて正面に見えてくる複雑な稜線を描く山岳こそ、半島中央に聳(そび)える火山、雲仙岳だ。県内最高峰の標高1483メートルの平成新山を始め、普賢(ふげん)岳、国見岳、妙見岳など多くの山からなり、列車はこの山々を回り込むように走る。

吾妻(あづま)駅を出ると、車窓に有明海の青が広がる。陸地に囲まれた内海のため、海を挟んで対岸に山並みや街並みを望み、逆方向に鎮座する普賢岳も角度によって姿を変えていく。山と海の組み合わせが見る者を飽きさせない。この先、列車が南下すると熊本の金峰山(きんぽうざん)も見えるようになる。

ひと足で島原まで行かずに途中下車した。まずは神代(こうじろ)駅で降り、駅裏の佐賀鍋島藩の飛び地だった神代領へ。国の重文の鍋島邸と、神代小路(こうじろくうじ)と呼ばれる武家屋敷街の石垣や生垣、建物が残り、時間が止まっているかのような静かな町を歩いた。

続いて諫早方面行きで少し戻り、島鉄では大三東駅と並ぶ海に近い駅の古部(こべ)駅で下車。長田製茶が営む駅前カフェ「ぽっぽや茶葉」では、海を眺めながら雲仙茶や地元野菜を使った本格カレーが味わえる。ランチ時間に合わせて上下線を行き来したが、先を急がないそんな鉄道旅もたまにはいい。

古部駅
線路横に干潟が広がる古部駅
カレー
「ぽっぽや茶葉」の氷水出し特選極上とほうじ茶ライスのスリランカカ レー
鍋島邸
2月に寒緋桜が咲く鍋島邸。周辺は国の重要伝統的建造物群保存地区(写真/ 長崎県観光連盟)

海に映える幸せの黄色いハンカチ

再び下り列車に乗り、旅の目的地の一つである大三東(おおみさき)駅で降りた。「日本一海に近い駅」をうたい、満潮時には波が駅舎のすぐ裏に打ち寄せる。ホーム越しに穏やかな海と対岸の熊本・阿蘇の山並みが広がり、沖には海苔養殖の支柱が並んでいて、天候や時間帯で表情を変える美しい駅だ。

5年前からこの駅で黄色いハンカチ事業が始まった。駅舎内の販売機で黄色いハンカチを買い、願い事を書いてホーム上の専用枠に取り付けるというもの。これがメディアやSNSに取り上げられ、さらに今春に放映された大手飲料メーカーのCM撮影地となって有名に。この日も無人駅に次々に人が訪れ、記念撮影していた。

2年前に運行を始めた観光列車のカフェトレインも、この駅に45分間停車する。諫早―島原駅間を土・日曜を中心に運行し、車内でランチやスイーツが楽しめる。復路の乗車券付きで5000円〜。

列車の窓ガラスに「しまてつ 幸せの黄色い列車王国」とキャッチコピーが書いてある。「2016年から社員と外部アドバイザーとによって取り組みが始まりました。列車のカラーが黄色ということもあり、幸せの黄色というコンセプトです」と営業統括部の瀬川真一さん。空と海の青に映える黄色いハンカチや車両は、確かに幸福感がある。

大三東駅
「日本一海に近い駅」をうたう大三東駅
キャチコピー
車両の窓ガラスに書かれた印象的なキャッチコピー
車内
島原鉄道の車内

島原駅から城下町&名水の町さんぽ

島原は復元天守のある島原城を中心に、武士の邸宅を公開する武家屋敷や、湧水池と庭園が美しい四明荘(しめいそう)など見どころが多く、城下町散策が楽しい。町の方々で湧く雲仙山系の伏流水「島原湧水群」の水音に心癒やされる。過去、雲仙岳噴火がもたらした災いと恵み、キリシタン弾圧の歴史も学びたいが、今回は紙幅が足りない。

島原には温泉もある。宿は霊丘公園体育館駅から徒歩5分の島原温泉ホテル南風楼(なんぷうろう)へ。かけ流しの湯と日の出の海を眺める露天風呂が素晴らしい。

翌日、島原港から船で熊本港に渡った。船上で振り返って見た雲仙岳の姿もまた見事だった。


文・写真/福﨑圭介


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島原駅
城を模した外観の島原駅
武家屋敷
水路が延びる島原武家屋敷。3軒の武士の邸宅が無料公開
四明荘
四明荘は、鯉が泳ぐ湧水の池と四季の花が咲く庭園が見所
露天風呂
露天風呂からの眺望が自慢のホテル南風楼(写真/南風楼)

●モデルコース(1泊2日 ※時刻は掲載時のものです)

〈1日目〉

諫早駅 9:20 発 島原鉄道線 島原港行き

神代駅 10:10 着/11:36 発 島原鉄道線 諫早行き

古部駅 11:46 着/13:24 発 島原鉄道線 島原港行き

大三東駅 13:48 着/14:48 発 島原鉄道線 島原港行き

島原駅 15:00 着/16:59 発 島原鉄道線 島原港行き

霊丘公園体育館駅 17:01 着(泊)

〈2日目〉

霊丘公園体育館駅 9:02 発 島原鉄道線 諫早行き

島原駅 9:05 着/11:03 発 島原鉄道線 島原港行き

島原船津駅 11:08 着/11:41 発 島原鉄道線 島原港行き

島原港駅 11:44 着

( 徒歩 4分)

島原港 12:20 発 熊本港行きフェリー+熊本駅行きバス

熊本駅 13:55 着


島原鉄道

島原鉄道線は諫早―島原港駅間の24 駅、43 . 2㌔を約1時間20分で結ぶ。朝夕は1時間に2本、それ以外は1時間に1本程度。乗車券は途中下車可能。上下線を行き来したり、路線バスを利用するなら下記の周遊パスが得になる場合がある。島原港から熊本行き、口之津港から天草行きの船が出ている。

島原半島周遊パス(1日券2000円、2日券3000円)……島原鉄道線全線、島鉄バス全線(高速バスを除く)、島鉄フェリー(口之津港~鬼池港、車を除く)に乗り降り自由。土・日曜と祝日のみ利用可。有人駅と車内で販売している。最新の情報は公式ホームページを参照。

問い合わせ:0957-62-4705

(出典 「旅行読売」2022年1月号)

(ウェブ掲載 2022年3月25日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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