伊豆で大河ドラマゆかりの地を巡る
三嶋和食 ひいらぎの「鰻重(上)」。タレが甘くなり過ぎないよう、身がべっとりとならないよう心がけているという
頼朝ゆかりの三嶋大社
かつてのにぎわいが戻り、久しぶりに玉砂利を踏む音があちらこちらで絶え間なく響く、新春の三嶋大社。今回はNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送が始まったことを機に、同社を厚く信仰したという源頼朝を意識して訪ねた。三島からひと足延ばして、北条家ゆかりの伊豆長岡も巡ることにした。グルメはもちろん、三島名物のウナギ料理と決めていた。
三島駅南口から徒歩15分に鎮座する三嶋大社。創建の時は定かではないが、中世以降は源頼朝をはじめ多くの武士が崇敬した。東海道に面し下田街道の起点に位置することから、伊豆国一宮としてその名は広く知れ渡るようになった。そんな歴史や由緒を詳しく知るなら、2月から実施する「三嶋大社正式参拝ツアー」がおすすめ。普段は入れない神域も見学でき、所要1時間、5人以上から受け付け。10日前までに三島市観光協会(TEL:055-971-5000)へ申し込む。
この日は特別に、権禰宜の池田幸司さんに境内を案内していただいた。まずは鳥居をくぐって右にある「源頼朝旗挙げの碑」へ。伊豆に流されていた頼朝は1180年8月17日、三嶋大社祭礼の夜に挙兵し、後に源氏再興を果たした。旗挙げの前、頼朝は百日祈願に通い、その際に休んだと伝わるのが「腰掛け石」だ。傍らの小さな石は妻の北条政子が腰を掛けた石といわれ、寄り添う二人の姿が目に浮かぶ。「神池」と呼ばれる大きな池に浮かぶひときわ鮮やかな社は、政子が勧請した厳島神社だ。
境内のそこかしこに頼朝の面影を見るよう。大河ドラマではどのように描かれるのか。期待を胸に、荘厳な権現造りの本殿前で手を合わせた。
三嶋大社の東、住宅街にある三嶋暦師の館も興味深い。仮名文字で印刷された暦としては日本で一番古いとされるのが三嶋暦。ここでは、織田信長や徳川家康も使ったと思われる三嶋暦の実物や版木を展示している。「太陰太陽暦」を基にした三嶋暦の複雑な成り立ちを述べるのは難しい。ボランティア会員による詳しい説明があるので、ぜひ訪ねてほしい。
新店のウナギと、運慶の仏像群
参拝の後は、お待ちかねのウナギ。三島では20軒ほどの店が味を競っているが、今回は昨年7月にオープンした三嶋和食 ひいらぎを訪ねた。三嶋大社のすぐそばにある小さな店で、カウンター席もありひとりでも入りやすい。
ひいらぎの主人・山中英之さんは、以前は裾野市で割烹料理店を営んでいた。その前には旅館や料理店で腕を磨き、和食を知り尽くしている。「小さな店だから、一品一品に手間をかけられる」と言う山中さんが焼くウナギは、カツオだしがベースのあっさりしたタレと、蒸しすぎず、焼きすぎずのふっくらした身の相性が抜群。鯛茶漬けなどウナギ以外のメニューも豊富で、今後注目を集めることだろう。
大河ドラマゆかりの寺へ
午後は伊豆箱根鉄道駿豆線で、伊豆の国市の伊豆長岡駅へ。訪ねたのは願成就院。北条義時、政子の父で、鎌倉幕府初代執権・北条時政が、頼朝の奥州藤原氏討伐の戦勝を祈願して建立した寺だ。
同院は大河ドラマゆかりの寺であることはもちろんだが、平安・鎌倉時代の仏師運慶が造った5体の仏像を目当てに訪れる人も多い。5体はいずれも国宝。時政が運慶に依頼して造らせたという。運慶が若かりし頃の作品だが、阿彌陀如来坐像の慈悲あふれる重厚感、毘沙門天立像の躍動感と鋭い眼光、不動明王の怒りの形相には、後の作品へ続く運慶の技量の一端を見て取れる。そして何より、時政、義時、政子、頼朝も拝んだ仏像が、時を超えて目の前にあるこの場所は、得もいえぬ贅沢な空間であると実感した。大河ドラマが回を重ねたら、またこの地を訪ねたいと思う旅となった。
<問い合わせ>
■鎌倉殿の13人 伊豆の国 大河ドラマ館 TEL:055-949-8606
■三嶋大社 TEL:055-975-0172
■三嶋暦師の館 TEL:055-976-3088
■三嶋和食 ひいらぎ TEL:055-981-7666
■御食事処 源氏 TEL:055-975-0882
■願成就院 TEL:055-949-7676
(出典「旅行読売」2022年3月号)
(ウェブ掲載2022年3月24日)