【文化財の宿】渋温泉 歴史の宿 金具屋(1)
夜はライトアップの浮かび上がる斉月楼。13本の通し柱が斉月楼の構造を支える
ライトに照らされる木造4階建ての宿
夜空の下、ライトに照らされる木造4階建てに見覚えのある読者は多いだろう。歴史の宿 金具屋は、旅行誌や紀行番組の名建築特集で定番と言える存在だ。実際に目の前にすると、そそり立つ建物は圧倒的な存在感を放ち、内部には奥深い世界が待っていた。
北陸新幹線長野駅から長野電鉄で50分。湯田中駅からバスに揺られてたどり着いた渋温泉は、志賀高原に源流を持つ横湯川沿いに温泉街が広がる。和合橋のたもとから山側に向かって石畳の道を進むと、外湯の八番湯、九番湯の先に金具屋が見えてきた。
その特徴的な名は、前身が鍛冶屋であったことにちなむ。温泉宿としての創業は1758年。裏山の神明(しんめい)山で土砂崩れが起こり、復興中に敷地内で温泉が湧いたという。金具屋のシンボルであり、今や温泉街のシンボルでもあるのが「斉月楼(さいげつろう)」だ。1936年に完成した木造4階建てで、国の登録有形文化財。斉月楼が「大広間」とともに文化財に登録されたのは、2003年のことだった。
建築好きが連泊したくなる美しい部屋
「そもそもは雑誌の取材がきっかけだったんです」と教えてくれたのは、9代目の西山和樹さん。2001年に長野出身の建築史家・藤森照信さんが取材で来訪し、西山さんは初めて建築物としての価値を認識した。「登録有形文化財制度についても、その時に初めて知りましたからね」。昔ながらの木造旅館は、こうして文化財の宿へと生まれ変わったのである。
江戸時代の蔵が移築された玄関から入り、畳敷きの帳場でチェックイン。客室は全29室で、宿泊棟は四つ。斉月楼のほかに潜龍荘(せんりゅうそう)、居人荘(きょじんそう)、神明の館があり、それぞれに建築時期も部屋の造りも異なる。部屋の指定はできないが、「厳選木造9室!建築にこだわるプラン」を利用したいところだ。
案内された部屋は斉月楼の「相生(あいおう)の寮」。踏込(ふみこみ)から次の間を経て10畳の本間に入ると、床の間の床柱に目を引かれた。美しい桜の木だ。床脇の上部の木はねじれた竹に見えが……。これはモウソウチクの変種で、節の間が亀甲状となるキッコウチクだそう。万事がこの調子で、建築好きは部屋を変えて連泊したくなるに違いない。
文/内山沙希子 写真/斎藤雄輝
住所:長野県山ノ内町平穏2202
交通:長野電鉄湯田中駅からバス10分、渋温泉または渋和合橋下車徒歩2分。湯田中駅から送迎あり(15時12分~18時5分到着のみ。要連絡)/上信越道信州中野ICから13㌔
客室:バス・トイレ付き10 畳和室など(全29 室)
料金:1泊2食1万8850円~(※2人1室利用時。掲載時の料金。最新のデータはホームページなどでご確認ください)
TEL:0269-33-3131
(出典:「旅行読売」2022年6月号)
(WEB掲載:2022年10月18日)