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【気楽に遠くへフェリー旅】コラム フェリー旅 今昔

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【気楽に遠くへフェリー旅】コラム フェリー旅 今昔

初代「さんふらわあ」(関西汽船時代)。甲板にはレストランやプールもあった。写真/商船三井フェリー

 

昭和から令和へ、フェリーの航跡をたどる。

客船からカーフェリーへ

日本は四方を海に囲まれた島国ということもあり、長い歴史の中で海運が発展してきた。今も北海道から沖縄まで、津々浦々を航路が結ぶ。海から眺める町、岬、山並み、島々が織りなす風景。それらは陸路の旅では決して得られない、新鮮な旅情を呼び起こす。

戦後日本の船旅ブーム。それは客船が切り開いた。

1960年代、大阪・神戸と別府を結ぶ関西汽船は黄金期を迎える。昼間に瀬戸内の多島美を満喫する、旅情たっぷりの航路。そこに当時最新鋭の客船を導入し、爆発的な人気を呼んだ。1972年には、日本高速フェリーが「さんふらわあ」を名古屋―高知―鹿児島航路に就航させた。プール付きで、現在のレジャークルーズに近い船旅を楽しめた。続いて4隻の「さんふらわあ」が東京―那智勝浦―高知や、大阪―鹿児島で相次いでデビュー。またたく間に一世を風靡した。
 
60年代後半になるとモータリゼーションの波とともに陸上交通のバイパスとしてカーフェリーが登場する。1968年の阪九(はんきゅう)フェリー(神戸―小倉)を皮切りに、多くの航路が瀬戸内海を中心に誕生。客船に車やバイクは載せられないため、カーフェリーで移動する人が多くなった。

オイルショックを経て高度経済成長時代は終わり、国民のレジャー意欲は急速に減退。乗客が減った客船は次々とカーフェリーに転用されていく。

かつてのフェリーの 代名詞・2等和室の大部屋。写真/著者

カジュアルクルーズフェリー時代

物流を主目的にしているカーフェリーでは、客船のような接客サービスは望めなかった。だだっ広い2等和室に乗客をびっしりとザコ寝させ、レストランの料理はおいしくない上に値段が高い。船内イベントはごく一部の船を除いて行われず、乗客は長い航海時間を退屈しながら過ごした。こうした「負のイメージ」が今も引き継がれ、フェリーを敬遠する人を多く生み出してしまった。

風向きが変わったのは2010年代。2009年から始まった高速道路料金割引の影響やリーマンショックによる景気の先行き懸念もあり、カーフェリーの利用者は激減。同時にこの頃、外国客船によるリーズナブルな日本周遊クルーズが始まった。クルーズは身近なものになり、カーフェリー各社も「カジュアルクルーズフェリー」路線に舵を切っていった。旅客を重視する新造船が続々登場したのである。

かつてフェリーの代名詞だった大部屋は縮少され、個室化が進んだ。バルコニー付きなどクルーズ客船に近いキャビン(船室)も最近では珍しくない。船内イベントを実施する船も増え、レストランのメニューもグレードアップ。Wi-Fi の導入、プラネタリウム、プロジェクションマッピングの演出、デッキでのバーベキューといった楽しみも充実してきた。

フェリーの大きな特徴は大浴場。サウナ付きもあれば、最近は露天風呂を持つ船も増えている。ショップには寄港地のお土産や、船会社のグッズなど品揃ぞ ろえも豊富。昨年から「御船印」の販売も始まり、これを集めるために船に乗るという人も少なくない。

船内にエレベーターもある(東京九州フェリー/写真 篠遠泉)
大海原を眺めながら入る展望露天風呂(東京九州フェリー/写真 篠遠泉)

乗るだけで非日常。希有な存在

乗客の嗜好も大きく変化した。かつては「安い」から乗っているという人が主流で、本州から四国・九州や北海道へマイカーやバイクで行くための貴重な交通機関だった。しかし本四連絡橋の開通、格安航空会社の登場、高速バス路線網の充実などでフェリーのアドバンテージは崩れ去ってしまった。

一方で現在は、高値の上級キャビンをあえて選び、「クルーズ感覚」でフェリー旅を楽しむ客層が明らかに増えた。クルーズ客船は価格や日程的に難しいが、1泊2日が主なフェリーは気軽にクルーズ気分が楽しめるというわけだ。さらに客船と違ってペットも乗せることができるし、同じキャビンで過ごせる船が増えた。

もちろん愛車(バイクや自転車も)と旅したいから乗るという層も健在だ。海上を緩やかに流れる時間を愛し、その旅情に身を委ねたいという旅人も多い。客船全盛期への回帰と、カーフェリーの進化という二つのトレンドがちょうどいい感じで交差しているのが現在地と言えるかもしれない。

それをシンボリックに表わしているのが東京九州フェリー(横須賀―新門司)だ。昨年7月に、22年ぶりに登場した新航路。開設理由は「海の高速道路」という物流目的が前面に出ている。その一方で旅客サービスにも力を入れ、船旅ファンの心もつかんでいる。

フェリーは単なる移動手段でも浮かぶホテルでもない。乗船そのものが非日常体験になる希有な存在なのだ。ロマンに満ちた令和のフェリーでぜひ旅してみてほしい。

 

文/カナマル トモヨシ
1966年、富山県生まれ。フェリーやクルーズ客船で国内外を旅する航海作家。雑誌「クルーズ」(海事プレス社)での連載執筆のほか、商船三井公式Webマガジン「カジュアルクルーズ さんふらわあ」で『さんふらわあ今昔ものがたり』を連載中。


(出典:旅行読売2022年8月号掲載)

(WEB掲載:2022年8月25日)


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