駅舎のある風景 上総鶴舞駅【小湊鐵道】
開業当時から残る駅舎の前に大イチョウの影
沿線にのどかな里山風景が広がる小湊(こみなと)鐵道に乗った。房総半島の真ん中を走るこのローカル線は、歴史を感じさせる国の登録有形文化財22施設を有する。
その一つ、上総鶴舞(かずさつるまい)駅には、長い歴史を見守ってきたイチョウの大木が、開業当時から残る駅舎のそばに植わっている。早朝、樹形はシルエットとなって浮かび上がり、地面に美しい影を描く。まるで何十年も前にタイムスリップしたかのような光景だ。
駅の近くには池和田(いけわだ)城址がある。400年以上前、ここは当地を治めていた里見氏の重臣多賀氏の居城で、後に豊臣秀吉の小田原征伐で落城し廃城となった。現在は本丸跡に天神社が祀られ、2000年6月から上総牛久(かずさうしく)駅近くの光福禅寺で御城印も販売している。
この地の風景と歴史に触れ、懐かしさで心が満たされた初冬の一日だった。
文・写真/越 信行
小湊鉄道線と上総鶴舞駅(旧・鶴舞町駅)は1925年に開業。1958年に現在の名前に改称。内房線五井駅から普通35分
(出典:「旅行読売」2020年12月号)
(WEB掲載:2022年10月21日)