鶴岡の食材や料理を全国へ発信 奥田政行シェフ 【山形県鶴岡市】
山形県の日本海側、庄内地方の南部にある鶴岡市は、「だだちゃ豆」や「民田(みんでん)なす」など在来作物が60種もあり、さまざまな郷土食が作られ、食文化が受け継がれてきた。2014年には日本で唯一、ユネスコ食文化創造都市の認定を受けている。
この街で生まれ育ったのが、イタリア料理のシェフ、奥田政行さんである。市内にある「アル・ケッチャーノ」本店をはじめ直営店や、全国のプロデュース店などで庄内の食材や料理を提供し、情報を発信している。
季節ごとのご馳走番付
「鶴岡は海へも山へも15分で行けます。海には139の食べられる魚介類がいます」と奥田シェフは説明する。庄内地方は季節がはっきりしているのが特徴で、季節ごとにご馳走番付が作れるほど。例えば、秋の東の横綱は庄内柿と庄内芋煮、西の横綱は庄内米「つや姫」と刈屋梨。冬の東の横綱は寒鱈汁とハタハタの田楽、西の横綱は納豆汁とアサツキの酢味噌和えといった具合。「世界に目を向けても相当なバリエーションです」と胸を張る。
庄内の食を支えるのは長年栽培されてきた在来作物だが、高齢化や収益面から離農する生産者が少なくない。奥田シェフは販路を開拓し、直営店やプロデュース店では在来作物を積極的に活用している。2022年7月に移転オープンした「アル・ケッチャーノ」本店では、厨房の隣に「肉研究室」「魚研究室」「味・温度研究室」と名付けられた加工室があり、食材の加工や商品化を研究している。
店舗に併設した「アル・ケッチャーノ アカデミー」には、料理教室ができるキッチンが設けられている。キッチンの隣には暖色で統一されたL字型のカウンターがある。「私と会話しながら食事を楽しんでもらうシェフズテーブルです」。奥田シェフの軽妙なトークが料理のスパイスとなることだろう。
奥田シェフとタッグを組む生産者
生産者との関係を重視する奥田シェフ。それに応える生産者のこだわりも尋常ではない。月山高原花沢ファームは、羊にただ茶豆のさやを与えて飼育している。さっぱりとした肉質ながら旨みがあって軟らかい羊肉に惚れた奥田シェフが「羽黒緬羊(はぐろめんよう)」と命名した。
井上農場は減農薬で手間暇かけた米作りをしており、自社精米で農協を経由せず出荷している。こだわりの米はミシュランで星付きのレストランからの引き合いもあり、4年前からはロンドンへ輸出している。
52ヘクタールの田んぼのうち、5ヘクタールは雪女神など5種の酒米を栽培しており、日本酒の原料にもなっている。
つけもの処本長は1908年創業の漬物店。民田なすや温海(あつみ)かぶなど、在来野菜を粕漬にしている。酒樽で塩蔵した後、酒粕を数回漬けて塩分を抜く。
「在来野菜の作り手が少なくなっているのが悩みの種」と4代目社長の本間光太郎さんは言う。将来的には自らが野菜を作ることも考えなければならないと危機感を持っている。
400年の歴史がある城下町
奥田シェフは「食の都庄内」の親善大使も務めている。食材や食文化の普及はもちろんのこと、「鶴岡を訪れる人を増やすことが夢」と語る。
2022年は徳川四天王筆頭の酒井忠次を祖とする酒井家が、初代庄内藩主として入部して400年を迎えた記念の年。鶴岡公園周辺の城下町には、庄内藩校致道館や歴代藩主を祀る荘内神社がある。
ほかにも2446段の石段が続く霊山である羽黒山、クラゲの展示数世界一の加茂水族館、海の守護神・龍神を祀る善寳寺(ぜんぽうじ)など、見どころが多い。
旬の味覚を味わいながら、季節ごとに趣を変える庄内を訪れたい。
<観光の問い合わせ>
庄内観光コンベンション協会 TEL:0235-68-2511