【うわさの夏麺】暑さ吹き飛ぶ、山形の冷たい麺
氷が浮かぶ栄屋本店の冷しらーめん
客のリクエストから生まれた名物
北国でありながら、山形市の夏は暑い。1933年に40.8度を記録した日本最高気温は、74年間破られることがなかった。そんな土地柄で1952年に誕生したのが、栄屋本店の冷しらーめんだ。
「夏場に冷たいそばがあるのだから、冷たいラーメンが食べたい」という客の要望に応えた。年間を通じて提供され、人気のほどがうかがえる。
酸味の効いた冷やし中華とは一線を画す。氷の浮かぶスープを一口飲むと、ダシや醤油の味わいがまさに「温かいラーメンを冷たくしたそのまま!」で衝撃を受ける。
スープはカツオと昆布をベースに牛チャーシューを煮込んだ醤油ダレや、植物性の油をブレンドしている。ほどよいコクを感じるのに油が固まらず、中太のストレート麺との相性も抜群。トッピングは、牛チャーシューやメンマ、ノリ、かまぼこ、ネギ。加えて、モヤシやキュウリのシャキシャキした食感も心地よい。
栄屋本店
11 時30 分〜19 時(10月1日~3月18日までの冬時間)
水曜(祝日の場合は翌日)休、8月は不定休
TEL:023-623-0766
山形新幹線山形駅からタクシー5分
夏はもちろん、寒い冬にも愛される一杯
江戸時代に紅花交易で栄えた河北町谷地(かほくまちやち)では、冷たい肉そばが名物だ。「谷地の肉そば会」に13店が加盟し、味を競い合っている。
一寸亭本店は1916年創業。冷たい肉そばに使うのは、コシのある中太の自家製麺。親鶏でダシをとり、薄口醤しょう油ゆ で甘じょっぱく味付けた汁とよく絡んで箸が進む。ネギとともにダシに使った親鶏がトッピングされ、歯応えと味わいが良い。
4代目の吉田繁生さんは「地元の人は冬でも『つったい(冷たい)の』と頼むんですよ」と話す。戦前の居酒屋のない時代、そば店は酒を飲める場所でもあった。そこで客がつまみにした馬モツの煮込みを、そばにかけて食べたのが始まりという。後に肉は馬肉から鶏肉に変わっていった。
この店では、ご飯の上に卵黄や薬味を載せたまかない飯も頼みたい。つゆをかけてもよし、そばを食べた後、丼に入れて食べてもよし。さらっと心地よく腹に収まる。
一寸亭本店
11時〜14時40分、17時〜18時30分(土・日曜、祝日は11時〜18時30分)/水曜休
TEL:0237-72-3733
山形新幹線さくらんぼ東根駅からタクシー15分
多彩なトッピングで最後まで飽きない
山形市の麺辰では、中華そばや魚介系のラーメン、濃厚な担々麺と並び、鶏中華が人気メニューの一つ。夏には季節限定(8月いっぱいまで)の冷たい鶏中華が出る。
店主の鈴木敏彦さんはラーメン店やそば店で16年間修業し、2008年にこの店を開いた。山形ではラーメンを出すそば店が多い。通常の鳥中華は、温かい和風のダシに中華そばの麺を合わせ、鶏のチャーシューなどを載せる。
この店の冷たい鶏中華も、温かいものとほぼ同じ構成。ただスープは温かいものより鶏を多く使ってダシを取り、3週間寝かせた「かえし」と合わせて甘めの味に。自家製の中太・平打ち手もみ麺は、スープとよく絡み、喉越しも良い。厚切りの鶏チャーシューに鶏そぼろ、歯応えのよいゴボウとニンジン、大盛りの白髪ネギ、小ネギと具も豊富で、最後の一口まで飽きない。冷たいと具やスープの味をよりダイレクトに感じられ、思わず笑顔になるおいしさだ。
麺辰
11時〜14時30分、17時〜20時45分(土・日曜、祝日は11時〜20時45分)/火曜休
TEL:023-666-8570
山形新幹線山形駅からタクシー15分
文/堀内志保 写真/堀内 孝
(出典:「旅行読売」2022年9月号)
(WEB掲載:2022年10月17日)