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日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【3】 ~雪国が育んだ食文化~

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日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【3】 ~雪国が育んだ食文化~

「せとぐち」のランチ。雪国の人々の保存の知恵が詰まった料理が並ぶ

ダンスに絵画、お茶やお花に語学講座まで。さまざまな趣味やおけいこを「講座」という形で提供しているよみうりカルチャー(読売・日本テレビ文化センター)。企画担当者として、日々、世の中の流行をキャッチする反面、伝統文化などにも触れる機会の多いスタッフが、雪降る新潟県十日町市へ旅をして、雪国文化を知り、雪を友として暮らす当地の人たちの心に触れた。

谷島未来(やじま・みき)/よみうりカルチャー講座企画担当。スイーツ好きが高じて企画した「和菓子バイヤー」や、「刀剣」などのヒット講座を手掛ける。趣味は、仕事の合間をぬっての観劇。

(写真:高橋敦史  編集:よみうりカルチャー)

雪国の田舎料理と夫婦の愛で、お腹いっぱいに

せとぐち
日本三大渓谷のひとつ清津峡の近くにある「せとぐち」。山深く、市街よりもいっそう雪深く、趣を感じる

十日町市に暮らす人たちは、長い冬を乗り切るために保存食の備蓄を欠かさなかったといいます。そうした雪国の田舎料理を味わえる「せとぐち」さん。温泉旅館としての営業のほか、昼食だけいただくこともできます。

保存食の代表格は「ツケナ(野沢菜漬け)」。春が近づき発酵が進むと、塩抜きをしてしょうゆなどと煮込んだ「ニーナ(煮菜)」として食卓に並ぶそうです。田舎料理というと苦手に感じる人も多いかもしれませんが、さにあらず。先人たちの保存の工夫とご主人の樋口克久(ひぐち・かつひさ)さん、奥様のまり子さんの丁寧な仕事で、どれもおいしい品々が並んでいました。

ランチは2500円~(鹿・猪肉付きは3000円~)。朱塗りの食器は「会所の膳」と呼ばれるもので、地域の人たちがハレの日などに使用するものだそうです。ランチは、要電話予約です。

せとぐち
いろりの上にはいろいろなものを吊るして燻製に。これも雪国の知恵。川魚は貴重なたんぱく源だった
せとぐち
ご主人に着せていただいた「スゲボウシ」。似合うかな? 持っているのは「かんじき」。いずれも雪国で受け継がれてきた大切な道具

奥様のまり子さんは九州・佐賀県生まれ。20代のころ、旅で「せとぐち」を訪ねたことが縁になり克久さんのもとに。嫁いだきっかけを訪ねると「何せお米が甘くて、おいしくて。気がついたらここにいたっていうわけ」と笑って話してくれました。夏には棚田にホタルが舞うそうです。

◎いろりと蛍の宿 せとぐち  くわしくは、こちら

「自然のものにはパワーがある」女亭主の心意気

ゆげ
「十日町 会席 ゆげ」の主人、弓削朋子さん。店の入り口には野菜や木の実などのビン詰めが美しくディスプレイされている。食材の保存には塩漬けや焼酎漬けなどさまざまな工夫がある

弓削朋子(ゆげ・ともこ)さん。北鎌倉の料亭や大阪・北新地の割烹料理店で、足掛け20年にわたり修行を積んだ和食料理人さんです。コロナ禍の2021年、ふるさと十日町市の駅前通りに里山の恵みが味わえる和食店をコンセプトに「ゆげ」をオープンされました。

弓削さんイチ押しは、「ジビエコース」(1万3200円)。十日町市や新潟県内の厳選した新鮮な食材を、雪国が育んできた食材の保存法や調理手法を駆使して作ります。料理はもちろんですが、器にも気を配り、目にも美しい!

ゆげ
地元のお母さんたちが弓削さんに教えてくれた雪国ならではの食材の活用法や保存法と、料理人の確かな技術が結びつき生まれた「ジビエコース」

この日のジビエは「猪の粕煮」、「鹿のグリル」など。硬かったり、生臭いイメージがあるジビエ料理ですが・・・なんておいしいの! 驚く私に「これも雪の恵みですね」と笑顔で弓削さんは話します。

「狩猟の時、すぐに内臓の処理をして雪に埋める。そうすると臭みが抜けるんですよ」。そして、この地域の野菜も格別においしいらしい。何でも、冬の雪が土にふたをすることで、保湿効果で栄養たっぷりな豊かな土ができるからとのこと。なるほど、十日町市の米がおいしいのも、この「雪の魔法」のせいだと気づかされました。

ジビエの話を聞いて、十日町市博物館にあった縄文人男性の人形が頭に浮かびました。それを伝えると、「雪は動物の足あとを残してくれる。だから逆に猟をしやすかったと思う」と友人の猟師さんの見解を教えてくれました。「雪は悪いことばかりじゃないんだな」。おいしい料理をほおばりながら、考えました。

ゆげ
雪どけ水で育てた「鯉のあらい」や「佐渡のカキ」など、滋味豊かな新潟の幸を丁寧に調理

女性同士の楽しい会話が続きます。弓削さんにあれこれ質問する中、元クロスカントリースキーの選手で海外遠征にもしばしば出かけていたことを耳に。体力勝負の世界を知る経験から、「食べることは生きること。実感として思うんです」と弓削さん。「自然のものにはパワーがある。それを最大限引き出すのが私の仕事かな」。弓削さんは少し照れくさそうに話しました。

オープンからまもなく2年。「ゆげ」には外国人も訪れるようになったそうです。きっとこの場所から世界へ、雪国の食の豊かさが発信されていくんだろうな。

◎十日町 会席 ゆげ  くわしくは、こちら

泊まるならココ! 当間高原リゾート ベルナティオ

ベルナティオ
「当間高原リゾート ベルナティオ」。この日は、大きな雪だるまが迎えてくれました。開放感のあるロビーの天井には雪の結晶をデザインした照明が!

十日町市街から車で15分ほど。敷地は東京ドーム109個分もあり、夏はゴルフ、バーベキュー、冬は雪遊びと1日遊べるホテルとして親子をはじめ、三世代での利用も多いというリゾートホテルです。朝ごはん日本一を競う旅行サイトのコンテストで全国1位になったこともあります。

多くの魅力を持つベルナティオで働いて6年目の神近由依(かみちか・ゆい)さんは、「いろいろなアクティビティーを楽しんでいただくことはもちろん、私たちに『会いに来たよ』と言っていただけるホテルを目指しています」とまぶしい笑顔を見せてくれました。

ベルナティオ
客室からは白銀の世界が目の前に。しんしんと降る雪の音が聞こえてきそう
ベルナティオ
屋根の一番高いところが鋭角な三角形になっていて、自然と雪が落下する。これも雪国の知恵の一つ
ベルナティオ 神近さん
神近さんは十日町市に生まれ、十日町市育ち。3年ぶりに開催された「十日町雪まつり」では、雪像づくりに参加。神近さんがお手伝いした雪像が市長賞に輝いたそうです

ベルナティオは、さまざまなアクティビティを楽しんだ後の「天然温泉」も魅力のひとつ。茶褐色のアルカリ性単純温泉。湯上がり後は、肌がすべすべに。露天風呂は広々とした造りで、ついつい長湯してしまいました。1泊2食1万7490円~(1人料金/2人1室利用)。

◎当間高原リゾート ベルナティオ  くわしくは、こちら

お土産買うならココ! 「道の駅クロステン十日町」

クロステン
雪国の恵みを生かした「道の駅クロステン十日町」で購入できるお土産品の数々
道の駅
「道の駅クロステン十日町」に飾られる「幸せを呼ぶ傘つるし雛」。約10メートル、1万2000個以上飾られる雛は圧巻

「道の駅 クロステン十日町」には、十日町市の名物のほか、「笹だんご」など新潟県内のお土産がずらりと並びます。雪どけの清らかな水で仕込んだ地酒「松乃井」のほか、最近はクラフトビールづくりも盛んだそう。市内には「妻有(つまり)ビール」や「醸燻酒類研究所(ジョークンビールラボ)」の2つの小さな醸造所があります。

名物の「へぎそば」の乾麺は、自宅でその風味を味わうのに最適。小嶋屋総本店、越後十日町小嶋屋、松代そば善屋、そばの郷Abuzakaなど、各社が競うその味を、食べ比べして楽しむのはいかがですか? 

◎道の駅クロステン十日町  くわしくは、こちら

◎妻有ビール  くわしくは、こちら

◎醸燻酒類研究所(ジョークンビールラボ)  くわしくは、こちら

◎小嶋屋総本店  くわしくは、こちら

◎越後十日町小嶋屋  くわしくは、こちら

◎松代そば善屋  くわしくは、こちら

◎そばの郷Abuzaka  くわしくは、こちら

 

 

雪国への旅を終えて・・・・・・

せとぐち
「せとぐち」にて

十日町駅からの帰り、ほくほく線を待つ間、今回訪ねた「スノウリッチ*スポット」と出会った皆さんの顔をぼんやりと思い出していました。・・・お土産処の「道の駅 クロステン十日町」は、十字の「クロス」と数字の10(テン)を掛け合わせた言葉・・・そういえば、十日町の「十」は「プラス」とも読めるなぁ。+を回転させると×にもなるな・・・。あっ!

青柳の蔵人社長は、花開いたきもの文化について、「京都などの産地から技術を学び、それを独自に昇華させた」と語りました。5千年前の縄文人たちは、実用として使う土器に、美意識を加えました。+(プラス)した新しい技術を、創意工夫と掛け合わせる(×)ことで、進歩してゆく―――。これがこの街に伝わる遺伝子かもしれないと気がつきました。

「シェアスペースasto」の滝沢梢さんは「最近、自分がこの地に生まれた意味を考え、何ができるのかを考えるようになった」と話してくれました。縄文時代から続くきもの文化。そして雪国の知恵と工夫。このまちに「+と×の遺伝子」がある限り、十日町市は「日本一の雪国」であり続けるでしょう。

旅に出るまでは、豪雪や雪国といった言葉には<寒い・暗い>といったネガティブなイメージがありました。でも今は、雪国は<暖かい・明るい>ものと感じています。今回お会いした方々は、どなたもおひさまのようなやさしい笑顔。さまざまなエピソードをお聞きする中で、心がだんだんと温かくなったことを思い出します。

スノウリッチの方々に、元気をもらう旅へ―――。皆さんも十日町市を旅されてはいかがでしょうか?


■日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【1】 ~国宝ときもの~ こちら

■日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【2】 ~雪国が育んだ食文化~ こちら

 

◎日本遺産「究極の雪国とおかまち ー真説!豪雪地ものがたりー」 

スノウリッチ*ツーリズム  くわしくは、こちら

 

(WEB掲載:2023年3月9日)

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Writer

たびよみ編集部 さん

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