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日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【2】 ~雪国が紡いだ「きもの」~

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日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【2】 ~雪国が紡いだ「きもの」~

株式会社青柳の工房にて。友禅きものの制作工程の一つ「板場友禅」

ダンスに絵画、お茶やお花に語学講座まで。さまざまな趣味やおけいこを「講座」という形で提供しているよみうりカルチャー(読売・日本テレビ文化センター)。企画担当者として、日々、世の中の流行をキャッチする反面、伝統文化などにも触れる機会の多いスタッフが、雪降る新潟十日町市へ旅をして、雪国文化を知り、雪を友として暮らす当地の人たちの心に触れた。

谷島未来(やじま・みき)/よみうりカルチャー講座企画担当。スイーツ好きが高じて企画した「和菓子バイヤー」や、「刀剣」などのヒット講座を手掛ける。趣味は、仕事の合間をぬっての観劇。

(写真:高橋敦史  編集:よみうりカルチャー)

縄文時代から連綿と続く「着もの」文化

縄文時代からの編布を淵源に、織物づくりを発展させ、現代のきもの産業へとつないできた十日町市。市内には多くのきものメーカーがあり、美しいきものを紡ぎ続けています。今回、株式会社青柳さんのご厚意で、素敵なきものをお借りしました。そして、着付けしていただいたあと、工房も見学させていただきました。

青柳 きもの
雪景色になじむデザイン。きものを着ると、自然と背筋が伸びる。協力:株式会社青柳

青柳の大竹名保紀(おおたけ・なおき)さんによると、十日町市のきものづくりの特徴は「工房での一貫生産」とのこと。「冬は雪に閉ざされてしまうため、すべての工程を1か所で完結させるスタイルが定着しました」。豪雪地だからこそ生まれた産業文化です。

きものづくりは、デザインから染料づくり、型紙づくり、柄の手書き、染めや絞り、装飾、仕立てといった数多くの工程があります。西陣をはじめ、多くのきもの産地は分業制がほとんど。青柳蔵人(あおやぎ・くらんど)社長は「すべてが自社生産だからこそ妥協はできない。品質には強いこだわりを持っています」と胸をはります。

青柳 行程
きものづくりには多くの工程があり、職人さんたちはそれぞれの手数を惜しまない。繊細な作業の一つ一つに見入ってしまいました
圧倒される「桶染め」工程。青柳で受け継がれる技術の真骨頂

工房見学のクライマックスは「桶染め」です。 煮立つような染料はなんと90度から100度! ムラが出ないよう桶を動かしながら約8分間作業を続けます。 職人さんは耐熱手袋をしていますが、手にはやけどの“勲章”が絶えないそうです。

 

桶を開くと、外の部分だけが染まり、中は一滴の染料の漏れもない。きものによっては、色を変え、この工程を何度も繰り返す

職人さんたちのもくもくと手を動かす姿、そして、道具が発する音だけが響く工房には、「良いものを作りたい」という職人さんたちの“想いの声”がこだましているように感じました。

実は観劇が趣味の私。 いつか十日町市の素敵なきものを着て、観劇にお出かけできたらいいな・・・。 心からそう思った工房見学でした。

ふのり
これが「布海苔(ふのり)」。意外とごつごつしているなあ

最後に、大竹さんが見せてくれたのは海藻の「布海苔(ふのり)」。 糸を紡ぐときに、糸に強度を持たせるために糊状にして塗るんだそうです。 この「布海苔」を使ったそばが、そう、名産の「へぎそば」ですよね。青柳のみなさま、大変にありがとうございました!

工房見学は、下記ホームページの[予約フォーム]から

◎株式会社青柳  くわしくは、こちら

見た目も美しい名産「へぎそば」

小嶋屋総本店
小嶋屋総本店の一番人気「天へぎ」(1人前1628円) ※写真は3人前

市内川西地区にある小嶋屋総本店を訪ねました。

青柳で学んだ「布海苔」をつなぎに使った「へぎそば」をいただきました。 のど越しが良くコシがあり、ほのかに磯の風味も。 「へぎ」とは、そばを盛り付ける器のことだそうで、淡いうぐいす色のそばが、一口ずつ盛りつけされています。

「手振り」という盛りつけ技法だそうで、織物の糸をつむぐときの動作をまねたものとか。 お店の入り口部分の展示スペース(下写真)には、「へぎ」の上に麻の繊維が並べられているディスプレーも。 きものづくりの美的感覚がへぎそばに生かされていることを感じさせてくれます。

◎小嶋屋総本店  くわしくは、こちら

小嶋屋総本店
水車が目印の小嶋屋総本店。店入口のディスプレイ。へぎそばをいただく前に、その歴史を学べます。

十日町市のきものの良さを伝える伝道師として

へぎそばでお腹を満たした後は、十日町市のきもの文化を勉強するため、きものの小売店「和の風」さんへ向かいました。

「バブルのころまで全国から仕入れ業者がたくさん十日町にやってきましたよ」とご主人の千原祥一(ちはら・しょういち)さんは優しく語ります。 「私たち流通業者は、来訪される仕入担当者の宿・食事・宴席の手配もしました」。 そのころの十日町市は、そこかしこで機織りの音がしていて、街は大いににぎわっていたといいます。

和の風
反物を広げる千原さん。奥に写る赤い市松模様のきものは、2002年のサッカーワールドカップの際に作ったもの。クロアチア王家の紋章からデザインした。十日町市がクロアチアチームのキャンプ地だった縁から、市民交流が今も続いている

十日町市のきものは、明治時代に麻から絹へと移り変わり、高級な絹糸に数千回も撚(よ)りをかけ紡ぐ「明石ちぢみ」の発明で、最盛期を迎えたそうです。 しかし、きものを着る人は減り続け、今では成人式や冠婚葬祭での用途が一番だといいます。 「これからは販売役から、人の人生を華やかにする世話役にならなければと思っています」と心の内を明かしてくれました。

最近、千原さんは奥様と一緒に、習う人が自分できものを着ることができるようになることを目的にした「きもの道場」を開き、裾野を広げる活動も始められているそう。 カルチャーセンターにも、茶道、華道、日本舞踊・・・きものが似合う講座がたくさんあります。 日本の伝統文化をつないでいく私たちの役割の大きさを実感したひとときでした。

◎和の風  くわしくは、こちら

 

和の風
和の風に飾られる優しい色合いの反物。火焔型土器をあしらったデザインも

きものを育む地域と新しい時代をつなぐ場所

滝長商店
瀧長商店「シェアスペースasto」。昭和42年築。味わい深い書体で書かれた看板が歴史を伝える。1階部分は染料倉庫としていまだ現役

市内の中心にある十日町高校のすぐそば、瀧長商店「シェアスペースasto」を訪ねました。 染料を保管する建物の2階をリノベーションしたおしゃれなシェアアートスペースです。

染料を扱う瀧長商店の跡を継ぎ、自らもきもの産業に関わる滝沢梢(たきざわ・こずえ)さんが、2018年にオープンさせました。 「きものの街の地域文化を大切にしながら、新しいもの、美しいものが生み出される場を目指しています」と滝沢さん。 3時間単位での利用できるほか、シェアキッチンもあります。

◎シェアスペースasto  くわしくは、こちら

 

瀧長
昭和の香りを残しつつも機能的なシェアスペース

■日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【1】 ~国宝ときもの~ こちら

■日本遺産と雪ものがたり 新潟県十日町市【3】 ~雪国が育んだ食文化~ こちら

 

◎日本遺産「究極の雪国とおかまち ー真説!豪雪地ものがたりー」 

スノウリッチ*ツーリズム  くわしくは、こちら

 

(WEB掲載:2023年3月9日)

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Writer

たびよみ編集部 さん

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