曼殊院の秘仏・黄不動が最後の公開へ
修復された黄不動。今後は秘仏になるので今回が貴重な機会に
洛北の名刹といわれる曼殊院(まんしゅいん)門跡。起源は最澄が比叡山で坊を営んだことがはじまりと伝わる。その後、江戸前期に良(りょう)尚法(しょうほう)親王が入寺し、現在の地に移って堂宇が整備された。桂離宮を造営した父・八条宮智(とし)仁(ひと)親王の影響もあり、曼殊院と桂離宮は共通点が多く、「小さな桂離宮」とも呼ばれる。
独特の曲線を描いた「むくり屋根」を頂く数寄屋風の大・小書院は、宮中文化の優雅さを漂わせる。さらに小書院の「富士の間」には、富士山をかたどった七宝焼の釘隠しが施され、奥に続く部屋との仕切りには菊の花の紋様が。良尚法親王の居室だった「黄昏の間」の壁には十種類の寄木で作られている曼殊院棚など、贅沢できめ細かな意匠が随所に見られる。書院の前には、小堀遠州好みの枯山水庭園が広がる。水の流れを表した砂の中には、鶴島と亀島を配する。鶴島にある樹齢400年の五葉松は、ツルを表現している。
その曼殊院に昨年、150年ぶりに宸殿(しんでん)が再建され、前庭の整備が完了した。これを記念して5月13日から6月30日までの間、「国宝・黄不動明王像」の特別公開を行う。2013年から2年間の修復作業によって鮮やかな色彩を取り戻した「黄不動」は平安後期の作で、園城寺(三井寺)の秘仏・黄不動を写したもの。今回の特別公開では、修復期間中に愛知県立芸術大学が模写した黄不動も同時に展示されるため、2幅を見比べることができる。なお「国宝・黄不動明王像」は劣化や剥落を防ぐために、今後は秘仏になるため、これが最後の一般公開となる予定だ。
宸殿の前庭は「盲(もう)亀(き)浮木之庭(ふぼくのにわ)」と呼ばれ、白砂で大海原を表現した枯山水庭園になっている。石は大海に住む盲目の亀で、息継ぎのために100年に一度頭を出したところ、風に流されて来た木片の穴に偶然頭がすっぽりはまる様なのだとか。仏教との巡り合い、人間に生まれることの難しさを表現しているという。