養老渓谷で黒湯と妙味を堪能①
喜代元の内湯に注がれる名物「黒湯」。一面が真っ黒で、湯舟の底が見えない
都心から約1時間20分の名湯
千葉県は房総半島の中央部、養老川沿いの山懐に9軒の温泉宿が点在する養老渓谷温泉。1914年に源泉が湧出したのが温泉場の始まりと伝わり、今年で開湯110年を迎える。山あいの渓谷は四季折々に趣ある表情で迎えてくれ、“養老渓谷”として房総随一の景勝地になっている。
都心から訪れやすいのも魅力で、例えば東京駅周辺から東京湾アクアラインを走って車で向かうと、養老渓谷温泉まで約1時間20分。箱根へ向かうより近い。
そんな風情ある温泉場の雰囲気を一変させたのが、2023年9月の台風13号だ。川の氾濫などで5軒の宿が浸水被害を受け、復旧に時間を要した。ようやく約1年の時を経て、復旧最後の旅館となる「喜代元」が2024年9月6日に営業再開を果たした。
災害を乗り越え営業再開
喜代元は、温泉場の中でも小湊鐵道養老渓谷駅に近い下流部にある。創業は1967年で、当時は地元の人たちが集う居酒屋のような小さな宿だった。行商の客なども多く、時には一緒に夕食を囲むこともあったという。
37歳の時に地元に戻って宿を引き継いだのが、2代目当主の秋葉保雄さん。「今は、お客様を再びお迎えできる喜びでいっぱいです。1階が1.7㍍ほど土砂や濁流水で浸水した時は、“廃業”の2文字が頭の中をよぎりました」と当時を振り返る。
復興に向けて重点を置いたのは、災害対策だったという。1階の玄関部分を約20㌢かさ上げしたり、耐震に向けて鉄骨や壁を増やしてリニューアルした。泥のにおいがすごく、敷地内の泥出しだけで約2か月も要した。食器、調理場器具、エアコン、ボイラーなどは、すべて入れ替えたという。「ゼロからではなく、マイナスからの再スタートの気持ちで頑張りたい」と、秋葉さんは語る。
貸切風呂で黒湯を楽しむ
温泉宿で一番心配なのは、やはり源泉だ。敷地内に自噴泉があり、浴場へ引く配管は泥詰まりしたものの高圧洗浄で対応。源泉そのものに影響はなかった。昔から“黒湯”と呼ばれる黒っぽい色が特徴で、コーヒー風呂につかるような印象である。喜代元の源泉は毎分12.8㍑の湧出量で、泉温17.8度のため加温して利用している。
泉質はナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩泉で、アルカリ性の湯はとろみのある肌触り。美肌効果も期待でき、適応症は神経痛、関節痛、冷え症、切り傷など幅広い。秋葉さんいわく、「保温性が高いので、これから次第に寒くなってくると、さらに実感していただけます」と。
風呂は男女別に内湯が一つある。窓の外には渓谷の木々を見渡せ、夏は緑豊かな情景、秋はモミジが色付く錦絵を楽しめる。
チェクインの15時から18時30分までは男女別の利用だが、以降23時まで貸し切り利用できる。1回30分単位で、夫婦や家族でプライベートなひと時を楽しめる。別途で貸し切り料金はかからず、先着で空いていれば自由に利用できるのも客冥利に尽きる。
美容と健康にいいブランド豚
客室は、和室と特別室をあわせて計8室。すぐそばを流れる清流の眺めがすてきで、11月下旬~12月上旬の紅葉の見頃には対岸のモミジの木々がライトアップされる。
食事処は昨年リニューアルしたばかりで、フローリングにテーブル席が並ぶ。ここで味わう夕食は季節を意識した田舎料理で、山形県・大商金山牧場のブランド豚「米の娘ぶた」の陶板焼きが名物だ。
米の娘ぶたは米とホエー(乳清)を食べて育てられ、血液をサラサラにするというオレイン酸の含有量が通常の豚肉の約2倍もあるという。老化防止への期待が高いビタミンEについては約4倍というから、美容にも健康にもありがたい。特徴は柔らかい肉質と、あっさりと甘い脂身。「食肉産業展銘柄ポーク好感度コンテスト」で、過去10年間で最高のグランドチャンピョンに輝いている。11月からは献立が変わり、豆乳鍋で米の娘ぶたを味わえる。
宿データ
喜代元/1泊2食平日1万5000円~(2人1室利用の1人分)。電話0463-96-0345。詳しくは、こちら
養老渓谷へのアクセス
車:圏央道市原鶴舞ICから25㌔(最短距離ルートの途中一部が通行止めのため、大多喜町内経由のう回路)
鉄道:小湊鐵道養老渓谷駅からバス3分(温泉郷入口バス停)~15分(粟又ノ滝バス停)
観光の問い合わせ
大多喜町観光協会 電話0470-80-1146
市原市観光・国際交流課 電話0436-23-9755
千葉県観光物産協会 電話043-225-9170
(WEB掲載:2024年9月17日)