【オールインクルーシブの宿】コラム オールインクルーシブの魅力とは(観光・宿泊業研究家 山田祐子)
露天風呂付き貸切風呂「りんどう・かもしか」(写真/ゆと森倶楽部)
オールインクルーシブの宿とは?
近年、「オールインクルーシブの宿」とうたったり、オールインクルーシブの宿泊プランを設定する宿泊施設が日本でも増えている。それには大きく分けて二つの形態があると考えている。
一つは、元々ビュッフェ形式の食事や飲み放題でドリンクを提供していた宿が、それらを「オールインクルーシブ」と言い換えたケースである。これは1泊2食付きという日本の伝統的な旅館文化の延長とも言え、宿側も導入しやすかったのだろう。外国人旅行者にも「All Inclusive(オールインクルーシブ)=すべて込み」という明確な表現として分かりやすい。
もう一つは飲食に加え、アクティビティーや自然体験などのレジャー要素を含む本格的なオールインクルーシブ型宿泊形態である。
代表例は1950年創業の「クラブメッド」で、1日3食のビュッフェやドリンク、スポーツ・レクリエーションなどが料金に含まれる。石垣島の施設ではヨガや星空観賞、スポーツ用品の貸し出しなどは無料だが、スキューバダイビングなどは追加料金がかかる。こうした宿はリゾート地に多く、基本的には長期滞在を前提に3泊以上でお得になるプランが主流である。
〇〇放題だけじゃない魅力も
筆者が初めて本格的なオールインクルーシブを体験したのは、宮城県遠刈田(とおがった)温泉にある「ゆと森倶楽部」だった。到着後、ガイド付きの「森の午後さんぽ」に参加し、その後は自家源泉の温泉で汗を流した。館内には六つの浴場があり、朝晩、異なる湯を楽しめる。
夕食では野菜を主役にした料理と、アルコールを含むドリンクを自分のペースで好きな量を味わい、食後には暖炉を囲みながらのライブイベントでほかの宿泊客と自然な交流が生まれた。翌朝はヨガに参加し、朝食をとるまでのすべてが料金に含まれていた。

暖炉の火を囲みながらのんびりくつろぐ(写真/ゆと森俱楽部)
このような明朗会計に加えて、筆者が特に魅力を感じたのはスタッフとの距離の近さである。チェックイン対応をしたスタッフが、そのままガイドやインストラクターを務めることで、滞在中に何度も顔を合わせ、親しみが生まれる。単なるサービスの提供者ではなく、旅の時間をともに作る仲間のような存在になるのだ。
クラブメッドでも、G.O.(ジェントル・オーガナイザー)と呼ばれるスタッフが同様の役割を担い、ホテル業務に加えてアクティビティーやエンターテインメントを通じた交流を提供している。
「選べる自由」が支持される
令和7年度の観光白書によれば、日本人の国内宿泊旅行の平均泊数は1.7泊程度と短く、オールインクルーシブの利点を十分に生かすことが難しい傾向にある。しかし今、オールインクルーシブが国内で注目され始めているのには大きく二つの理由があると考えている。
一つ目は、新型コロナウイルス感染症の影響によって旅行のスタイルが変化し、長期滞在を後押しする社会的環境が整ってきたことだ。リモートワークの浸透により、「ワーケーション」など旅先で働くスタイルが広がりつつあり、企業による有給休暇の取得推進や休日の分散化の動きも影響している。
二つ目は、コロナ禍を経て旅行者のニーズや価値観が大きく変わったことだ。感染防止の観点からサービスの一部が制限された時期には、宿泊者がセルフサービスで行動せざるを得なかった。宿側は「同じ料金をいただいているのに申し訳ない」と感じていたようだが、一部の人はそのスタイルに快適さを感じ、「これで十分」「むしろその方が良い」と肯定的に受け止めた。その結果、部屋食の廃止などかつては〝あって当然〟とされたサービスが今も再開されない宿もある。
ただし、オールインクルーシブは「何でも自由に楽しめる」わけではない。提供されるサービスはあらかじめ宿が設定したものであり、選択の幅も一定の範囲に限られている。それでも、時間や量、体験する順序を自分の意思で決められるという「選べる自由」は、現代人の感性に合致しており、これこそが最大の魅力といえるのではないだろうか。
文/山田祐子
宿の広大な敷地に広がる森をさんぽ(写真/ゆと森倶楽部)

やまだゆうこ
観光・宿泊業研究者。ホテル勤務を経て、観光・宿泊業の調査や取材をしながら、大学で観光学を教える。ツーリズムワイズラボ代表、All About旅館ガイド。
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2025年9月号)
(Web掲載:2025年12月11日)


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