【歩く旅】海沿いに歴史が息づく海軍の街 港を歩き、坂を上り、時を旅する<呉>
金属音が遠くに響く、大和波止場。ピクニックシートを広げてのんびり過ごせる
海と山が近い景色が一枚絵のように広がる呉
春の陽気に背中を押され、今日は海のそばを歩くと決めた。電車に乗り向かったのは呉市。クレーンが並ぶ港の景色も、ときにはいい。呉駅を出て数分で潮の匂いが鼻先をくすぐった。港の向こうに山の稜線(りょうせん)が重なり、海と山が近いこの街らしい景色が一枚絵のように広がる。
呉はかつて軍港として栄えた街。戦後は造船技術を生かして臨海工業都市として発展した。海風が、歴史の匂いまで運んでくるようだ。
最初に向かったのは、「海上自衛隊呉史料館(てつのくじら館)」。実物の潜水艦が陸上展示され、艦内に入って海上自衛隊員の生活の一端を体感できる。寝台に寝転べるので試しに身を横たえると、身動きできるスペースはほとんどない。さらに操縦席に腰かけると、海で任務を遂行する緊張感がじわりと伝わってきた。

てつのくじら館の潜水艦「あきしお」は、1986~2004年に実際に海上自衛隊で使用されていた
すぐ隣の「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」は、4月23日にリニューアルオープン。今回の改修では、10分の1戦艦「大和」がより実像に近づき、展示全体が刷新されるという。
海側に出ると、戦艦大和の前甲板をイメージした「大和波止場」がある。ベンチに腰を下ろし、行き交うフェリーを眺める。潮風が心地よく、いつまでもここにいたくなる。
昼食後は「歴史の見える丘」を目指した。緩やかな坂が腹ごなしにちょうどいい。眼下に「旧呉鎮守府(ちんじゅふ)庁舎」、戦艦「大和」を建造したドック跡の上屋、工場群(旧呉海軍工廠<こうしょう>)が広がる。造船のスケールに圧倒されつつも、高台を抜ける風が心地よくてしばらく見入ってしまった。

歴史の見える丘から見下ろした風景
丘を下り、「入船山記念館」へ。木立に包まれた森の中のミュージアムだ。石畳の先に、三角屋根の洋館「旧呉鎮守府司令長官官舎」が現れる。室内には金唐紙(からかみ)や調度品が残り、港で見てきた鉄の風景とは違う優美な時間が流れていた。館の前の坂道は「美術館通り」。「日本の道100選」の一つで、著名作家の彫刻が点在する。「これは何だろう」と立ち止まる小さな寄り道が楽しい。

入船山記念館の旧海軍工廠時計台。1日4回、小中学生が作曲した音楽が流れる

美術館通りでは、人や動物など18点の彫刻が道ゆく人を迎える

すずさんたちが描かれた壁画も!アニメ映画「この世界の片隅に」にも登場する「青山クラブ(旧呉海軍下士官兵集会所)」
ここまで出会った景色の一つ一つが、呉を違う角度から見せてくれた。歴史に触れるほど、同じ街でも色が変わって見えるのが面白い。呉駅から徒歩10分ほどの場所にある二河川(にこうがわ)公園は、春は満開の桜並木になるという。次はそこまで足を延ばし、この街の時間をもう一度感じてみたい。
呉ハイカラ食堂
潜水艦「そうりゅう」を冠したテッパンカレー1650円が名物。補給員から作り方を教わり、艦内の味を忠実に再現。フルーティーでコクがあり、艦長も認める一皿だ。海上自衛隊で使われているステンレス製の食器や、潜水艦をイメージした店内も、海軍気分を高めてくれる。
■11時~15時/火曜(祝日の場合は翌日)休/呉線呉駅から徒歩5分/呉市宝町4-21マリンビル3号館2階/TEL:0823-32-3108


軍港の歴史をたどる道
明治期に呉鎮守府と呉海軍工廠が置かれた海軍の街・呉市。港から海沿いを歩き、ミュージアムや歴史の見える丘、建造物、芸術にふれながら、今も造船と海上自衛隊の街として歴史を刻み続ける呉の景色が楽しめる。
文/前岡侑希
◉モデルコース
[ 徒歩距離◎5.2キロ ]
[ 徒歩時間◎1時間20分 ]
呉線呉駅 START
⬇ 1.6キロ(25分)
海上自衛隊呉史料館
(てつのくじら館)
⬇ 120メートル(2分)
大和波止場
⬇ 160メートル(3分)
呉ハイカラ食堂
⬇ 1.3キロ(19分)
歴史の見える丘
⬇ 950メートル(13分)
入船山記念館
⬇ 1.1キロ(16分)
呉駅 GOAL
■問い合わせ/TEL:0823-27-5090(ツーリズムKURE)
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
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(出典:「旅行読売」2026年4月号)
(Web掲載:2026年4月16日)


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