【歩く旅】コラム 人生が200%豊かになる!〝花さんぽ〟へのいざない(鎌倉フラワー&ネイチャーガイド 村田江里子)
鎌倉駅近くの滑川(なめりかわ)に架かる琴弾(ことひき)橋の桜。風情ある路地歩きでの花との出合いも楽しい
豊かな自然や歴史の足跡が残る鎌倉(神奈川)で〝花さんぽ〟の魅力を伝える村田江里子さんが、散歩を通じて人生に彩りや深みが出る秘訣(ひけつ)を教えてくれます。春、暖かい日差しを浴びながら、自然の中の道を歩いてみませんか。
「ホー……ホケキョ♪」 萌黄(もえぎ)色の山並み、ウグイスの声。うららかな春の日差し、頬をなでる春風にはらはら舞うサクラの花びら。春は花さんぽが楽しい季節です。
お花見や道歩きをもっと楽しくするコツは、花や自然、空などを眺めて、「すてき」「びっくり」「不思議」といった感性を磨きながら歩くこと。皆さんも観光地ではそのようにしていると思いますが、ポイントは通勤や買い物など旅先以外でも、このまなざしを持って歩くことです。
いつもの道に、公園や鎮守の森など寄り道ポイントをプラスしてみましょう。道すがら、花の命のきらめきを愛め で、香りをかいだり、木の幹に触れたり、揺れるこずえに〝f(※1)分の1ゆらぎ〟を感じてリラックスしたり。ふとした気づきの視点を持つことで、ただの移動時間が、何倍も豊かな時間に変化します。季節を愛で、「今ここ」を味わい、心に安らぎと潤いが生まれるのです。
「あ、スミレ!」「井戸があった!」私が主宰する講座「花をたずねて鎌倉歩き」では、気づきをシェアしながら歩くので、皆さん、幸せを見つける達人になっていきます。散歩中に驚きや発見などAWE(オウ<畏敬の念>)を抱く体験をした人は、ポジティブな感情が増え、ストレスが軽減することが研究でも明らかになっています。 AWE体験からは、幸福感や利他の心が生まれ、健康に良い効果があり、自分の道が見えると言われます。
※1自然界に存在する予測できない変化や動き。f は英語のfrequency(フリークエンシー)(周波数、振動数)などを意味する
珠玉のような自然と出合う道
こうしたネイチャーセラピーウォークでおすすめの、趣のある鎌倉の道をいくつか紹介します。苔(こけでら)寺と呼ばれる「妙法寺」。みずみずしい緑に包まれた苔の石段は、春には白いシャガの花が雪のように彩る、心に染み入る情緒があります。鎌倉ゆかりの俳人・星野立子(たつこ) は「美しき苔石段に春惜しむ」と詠みました。
谷戸(やと)あいに多くみられる鎌倉のお寺は、雨が「しぼり水」(湧き水)として染み出す場所にあることも多く、しっとりとした環境を好む苔などの植物が息づいています。鎌倉といえばアジサイと言われるのも、そうした由来なのでしょうね。

妙法寺の苔の石段。砂と火山灰が堆積積(たいせき)した堆積岩「かまくら石」は保水力があり、たおやかに風化し苔なども生えやすく、歴史の趣が漂う
次に、冒頭のような里山の原風景と出合える「鎌倉広町緑地」。湘南モノレール西鎌倉駅から徒歩20分ほど。淡い萌黄色の山並みに点々と咲くヤマザクラ、田んぼに流れる春の小川……。私のふるさとの森でもある広町緑地は、かつて開発の危機にありましたが、地域の皆さんの思いと努力で保全され、市民の力で守られたモデルケースとなりました。「きれい」「ワクワクする」……そんな楽しさから「好き」「大切にしたい」との思いが育まれ、地域の宝物を未来へつなぐ力になります。

里山の豊かな自然が残る鎌倉広町緑地。ヤマザクラが咲く春の谷戸
最後に、ちょっとワイルドですが、古道の趣に出合える名越切通(なごえきりどおし)。切通とは、鎌倉の三方を囲む山並みを掘り割って造られた中世の道です。竹林で知られる報国寺の脇から尾根道へ。途中で海が見晴らせ、パノラマ台からは山並みや江の島、空気が澄めば富士山も。約800メートル続く断崖「大切岸(おおきりぎし)」や左右に岩壁が切り立つ切通は圧巻で、中世にタイムスリップしたようです。緑ヶ丘入口バス停から鎌倉駅へ戻ってもいいし、健脚な方は逗子(ずし)の小坪へ降り、海を眺めながら新鮮な地魚の刺し身で地産地消を味わうのもおすすめです。

中世の古道・名越切通。人が1人通れるほどの自然の要害

名越切通近くの大切岸(おおきりぎし)。石切り場の跡と考えられている。迫力の岩壁が続く

名越切通付近パノラマ台からの絶景。鎌倉の三方を囲む山並みや由比ヶ浜、江の島、箱根の山々、富士山を見晴らせる
道端の花や自然、空を眺めて歩く時間から、自分を俯瞰(ふかん)する感覚や先を見通すひらめきが生まれてくるものです。脳科学者の苫米地(とまべち)英人博士は、「空を見上げるとA(※2)次元につながる」と述べていました。そんな直観をつなぎ合わせていくと、人生も仕事もたいてい流れに乗って導かれていくから面白いものです。
だから、旅先でも、日常でも、道端の花や自然、楽しいものを見つけようとするまなざしを持って歩いてみてください。きっとあなたの毎日が、ワクワクや発見に彩られていくはずです。
※2 Abstract(アブストラクト=抽象的な)次元のこと。物理次元の上にあるとされる
文・写真/村田江里子( 鎌倉フラワー&ネイチャーガイド)

むらた・えりこ
鎌倉・自然に学ぶ会代表。2010年から講座「花をたずねて鎌倉歩き」を主宰し、花や自然に親しみ、その魅力を伝える活動を続けている。環境カウンセラー、森林インストラクター。著書に『花をたずねて鎌倉歩き』(学習研究社)など
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年4月号)
(Web掲載:2026年3月19日)


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