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“何もない”が魅力の黒川温泉で、浴衣姿で気ままに非日常を体感

場所
> 黒川温泉
“何もない”が魅力の黒川温泉で、浴衣姿で気ままに非日常を体感

風情のある雰囲気作りを大切にする温泉街(写真は新明館前にて)

人気の黒川温泉へ、ふらりとひとり旅

買い物や観光の客でごった返す博多を抜け出して、約3時間弱。黒川温泉に到着するとすぐに浴衣に着替え、畳の上に寝転がった。宿は旅館山河。窓の外から聞こえる川音が心地いい。まだ日は高いが、気の向くままに缶ビールを開ける。一口飲んでは、またゴロリ。誰に気兼ねをすることもない。

ひとり旅に、黒川温泉を選んだのには理由があった。旅館組合のホームページに「ひとりで泊まれる宿」の検索項目があったこと。出かける前から、街全体がひとり旅をもてなす気持ちが伝わってきた。温泉街を巡る小道を浴衣姿で歩きながら、名物の湯巡りを楽しみたくなった。

旅館山河
何もせず、のんびり過ごすのも旅の選択肢の一つ(旅館山河)

閑静な湯宿の森の中の露天風呂へ

宿は、温泉街から少し離れた静かな立地にひかれ、旅館山河を選んだ。冒頭で触れた通り、部屋でひとしきり「浴衣でゴロゴロ」を楽しんだ後は、風呂へ向かった。約3,000坪の敷地に、男女あわせ七つの風呂がある。木立の小道を歩いて、森の中の露天風呂へ。そして内風呂へ。気ままに湯巡り。夕食後は、星空を眺めたくなって、外へぶらり。闇に瞬く無数の星を眺めながら、一人の夜はゆっくりと更けていった。

混浴露天風呂「もやいの湯」
野趣豊かな雰囲気が魅力の旅館山河の混浴露天風呂「もやいの湯」

黒川温泉は、ひとつの大きな旅館

翌日は温泉街歩きを楽しむことにした。観光案内所「風の舎」を訪ね、入湯手形を買った。70年代までは低迷の一途をたどっていたという黒川温泉。再生のきっかけは、宿の風呂巡りができる入湯手形だったという。

「黒川はとても狭いので、露天風呂を造れない旅館もあったんです。そこで考えたのが入湯手形。黒川温泉は一つの大きな旅館、という考えなんです」と黒川温泉観光旅館協同組合で教えてもらった。

黒川温泉には、派手な看板やネオンがない。あらゆる建築物が和風のデザインと、黒や茶色の落ち着いた色に統一され、街ぐるみで風情のある景観を作りだしている。

入湯手形
黒川温泉の魅力の一つ、入湯手形

下駄を鳴らし浴衣姿で温泉街へ

「べっちん館」でレンタル浴衣に身を包み、街の中へ。さて、どの温泉に入ろうか。地図とにらめっこしての思案もまた楽しい。最初は、立ち湯が人気の「いこい旅館」を訪ねた。湯上がり後は近くの「蕎麦龍」で、打ちたてのざるそばを味わった。

川端通りに戻り、いご坂をのぼると、地ビールの看板を発見!
たまらず「後藤酒店」の店先で濃厚な一本を味わう。漬物屋「平野商店」で土産を探した後は、2軒目の立ち寄り湯。今度は洞窟風呂が名物の「新明館」だ。

「いこい旅館」の露天風呂
入湯手形で立ち寄った「いこい旅館」の露天風呂

「また来たい」、そう思えるのが黒川温泉

旅館は全部で30軒。小1時間もあれば歩いて一周できるが、周回を重ねるたびに新しい発見がある。入湯手形の有効期間は6か月。1枚で3軒に立ち寄れるのであと1軒残っている。今度はいつ訪れようか。それがひとりでも、誰かとでも、黒川温泉ならばまた温かく迎えてくれるに違いない。

文/茂島信一 写真/下曽山弓子

施設データ

旅館山河 TEL 0967-44-0906
https://www.sanga-ryokan.com/

お問い合わせ

黒川温泉観光旅館協同組合 TEL 0967-44-0076
https://www.kurokawaonsen.or.jp/

(出典 「旅行読売」2016年11月号)
(ウェブ掲載 2019年10月1日)

Writer

茂島信一 さん

1966年生まれ。福岡在住のコピーライター。広告制作と並行 して、農業雑誌、旅行雑誌などの取材・執筆にも取り組み、 西日本一円の「地方」を飛びまわる日々。その際にほぼ必ず 持参するのはランニンググッズ。知らないまちを探検しながら 走ることと、道の駅や直売所で地元のおいしい食材を探すこと が大好き。

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