【旅する喫茶店】名曲喫茶 ライオン(渋谷)
ほとんどの席がスピーカーに向いていて、常連は席が決まっているという
昭和を色濃く残す、道玄坂の〝劇場〞
渋谷駅ハチ公口前のスクランブル交差点から道玄坂を上り、百軒店(ひゃっけんだな)商店街へ右折する。飲食店や風俗店が並ぶ繁華街を進むと、石造りの外観の店が現れる。
「昭和30年代の最盛期は、当時3階まであった席がお客様でいっぱいでした」と、店長の石原圭子さんは懐かしそうに振り返る。1926(昭和元)年の創業時、初代店長が彫ったライオンのレリーフが入り口に飾られているほか、戦後修復したという店内は昭和がそのまま残っている。
店に入って目に飛び込んできたのが、正面にある巨大スピーカー。プレーヤーを含め特注品で、クラシック音楽目当ての客が引きも切らない。「音が立体的に聞こえますよ」と石原さん。
1日2回、15時と19時に「コンサート」が行われる。5000枚を超えるレコードから選ばれる曲は事前に決まっているので、好みの曲の日時に合わせて来店する客もいるという。「空き時間にはリクエストもできますし、このスピーカーで聴きたいとレコードをお持ちになる方もいらっしゃいます」
創業時から変わらないというモカなど3種の豆をブレンドしたコーヒー(550円)を飲む。モーツァルト「ピアノ協奏曲23番」の流麗でやわらかな音色にひたり、夢見心地で過ごした。
文・写真/中野秀俊
住所:東京都渋谷区道玄坂2-19-12
交通:山手線渋谷駅から徒歩8分
TEL:03-3461-6858
(出典 「旅行読売」2014年3月号)
(ウェブ掲載 2019年11月1日)