【旅する喫茶店】進々堂 京大北門前(京都)
ナラ材の長机が置かれた店内。勉強の邪魔になるので音楽は流さない
カルチェ・ラタンのカフェの香り
学生や旅人と喫茶店の相性はいい。時間を持て余し、行き場に困った学生たちや、訪れた町を歩き疲れた旅人たちは、進々堂(しんしんどう)のような静かな店で束の間の休息をとり、次の一歩を踏み出す鋭気を養う。
平日の朝、店内にはすでに数人の客がいて、ノートや本を広げ、コーヒーを飲んでいる。窓の外に今出川通りを隔てて京大が見え、時おり学生が行き過ぎる。
補修を繰り返した内装はほぼ開業時のまま。年季の入ったランプシェードやカウンター、詩人ワーズワースの英詩のレリーフ、後の人間国宝の木工家・黒田辰秋(たつあき)が手がけた長机が、黒く静謐(せいひつ)な光を放っている。
開業は1930(昭和5)年、内村鑑三門下の詩人だった続木斉(つづきひとし)は、フランス・パリに留学してパン作りを学び、帰国後にパン屋とカフェを開いた。「学生が集まるカルチェ・ラタンのカフェを京都につくりたかったようです」と、ひ孫にあたる店主の川口聡さんは言う。
店はそれからずっと町を見守り続けてきた。「店そのものが生きていると感じる瞬間があります。黒田さんの机に座って、ゆっくりほっこりしてほしい」(川口さん)
店内は時が止まっているかのよう。その静寂が温かい。焼き立てパンとミルク入りコーヒーで腹ごしらえしてから扉を開け、京都の町を歩き出した。
文・写真/福﨑圭介
進々堂 京大北門前
住所:京都市左京区北白川追分町88
交通:京阪鴨東線出町柳駅から徒歩15分
TEL:075-701-4121
(出典 「旅行読売」2014年2月号)
(ウェブ掲載 2019年11月1日)