【旅する喫茶店】喫茶ソワレ(京都)
青い照明と東郷青児の美人画が特徴的な店内
繁華街・四条の片隅で開かれる静謐な〝夜会〞
「店は人なり」と思う。インテリアや食事、音楽……店主の好みを映す諸々が組み合わされ、喫茶店という個性的な空間が形作られる。京都の繁華街・四条の片隅にある喫茶ソワレは、その意味で無二の個性がある。
この店の居心地のよさはその個性と関係がある。昼夜を問わずひっそりとしていて、妖(あや)しくも落ち着いた青い光をたたえている。ほぼ創業時のままの空間に、彫刻家の池野禎春(さだはる)によるブドウをモチーフにした木彫や東郷青児(とうごうせいじ)の美人画が浮かぶ。
創業は戦後の1948年。近くの花遊小路(かゆうこじ)で女性向けの雑貨商をしていた元木和夫さんが喫茶を始め、2代目の英輔さんが引き継いだ。親交があった染色研究家の上村六郎(うえむらろくろう)氏から、「色彩論的に青は女性を美しく見せる」と助言され、照明を青にしたという。
店名はフランス語で「夜会」を意味するが、音楽はかけていない。「お客さま同士のささやき声がBGM。静かな空間を楽しんでほしいという先代の思いがあり、なにも変えずに受け継いできたと聞きました」と、5年前にオーナーを継いだ3代目の下山純子さん。
75年頃からある名物のゼリーポンチは最近、写真映えすると若い女性に人気という。「2代目オーナーの妻が、牛乳嫌いの幼い娘のためにと5色のゼリーを甘く味付けして、牛乳に入れたゼリーミルクを考案したのが原型です。その後、神戸産の地サイダーを使ったゼリーポンチが生まれました」と下山さんが誕生秘話を教えてくれた。
「牛乳嫌いの娘」とは下山さんのことで、自身も4人の子どもを育てながらこの店を受け継いだ。家族の物語を聞きながら青い光の下で見るゼリーは、不思議な色合いで輝いていた。
店の前に高瀬川と桜の木がある。4月上旬、2階席から見る花は艶やかで夢うつつ。まるで夜半に夢の中で見ている、あるいは、蒼(あお)い海の底から地表をのぞいているようで。
文/福崎圭介 写真協力/喫茶ソワレ
住所:京都市下京区西木屋町四条上ル真町95
交通:阪急京都線河原町駅から徒歩すぐ、または京阪本線祇園四条駅から徒歩2分
TEL:075-221-0351
(出典 「旅行読売」2014年4月号/2021年 臨時増刊「旅する喫茶店」加筆修正)
(ウェブ掲載 2019年11月1日)